研究課題/領域番号 |
17K06160
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
望月 信介 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (70190957)
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研究分担者 |
鈴木 博貴 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (10626873)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 乱流 / 境界層 / 壁法則 / エントレインメント / 間欠性 / 後流法則 / エネルギー変換 |
研究実績の概要 |
研究対象としている平衡境界層の条件を整え、壁面せん断応力を含めた通常の平均による統計量の計測を完了し、条件が設定されていることを確認した。乱流と非乱流とを識別する方法を構築し、正常に使用できることを確認した。 乱流境界層は二次元性を保ちながら、レイノルズ数が一定となる領域を作成するため、主流速度がべき乗側に従って加速する流れにより生成された。変動速度は熱線流速計により計測した。壁面せん断応力は従来から保有の直接測定装置に加え、局所の値を非平衡状態においても計測できるように、サブレイヤープレート法と呼ぶ方法を開発した。これにより、平衡状態に至る過程において、境界層の挙動が把握でき、最終段階である平衡状態の構造の解釈が可能と期待される。 壁近くの壁法則において、圧力勾配の影響を確認し、その平均速度分布と乱流量分布における修正を試みた。この修正法は逆圧力勾配において開発したものであるが、当該流れ場である順圧力勾配においても有効であることを確認した。乱流量における修正案の有効性が確認されたのは初めてである。ただし、有効である圧力勾配の大きさには制限があり、比較的弱い圧力勾配の範囲では有効であるものの、強い圧力勾配においては修正が困難である。また、修正が有効である圧力勾配の大きさは逆圧力勾配よりも小さい。 外層のエントレインメント構造に関し、平均速度分布の後流法則、間欠係数分布および領域平均を取得した。エントレインメントが極めて小さい状態において、平均速度の後流強さがほぼ零となることを確認した。一方、エントレインメントが極めて小さい場合においても、通常の境界層と同様に乱流バルジと呼ばれる界面の存在が予想される結果となった。しかしながら、乱流拡散の強度は低く、2年目に向けて本研究の主題である速度成分の5成分分割によりそのメカニズム解明に進むこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流れ場の設定、設定状態の確認が完了した。また、計測手法においても、非平衡状態における流れ場の変化を追跡できる壁面せん断応力の計測手法が確立できた。これは本研究において構造解明に重要な寄与をなすものである。 2年目に向けて外層の基本構造を確認できたことは今後の研究の展開において極めて重要な進展である。エントレインメントが零に近い状態において、外層の後流強さがほぼ零であること、乱流拡散をもたらす変動速度の3乗積が極めて小さいことが確認でき、これは予想と一致していた。一方で、間欠構造においては通常の境界層と同様に入り組んだ界面が存在することが間欠係数分布から予想された。これは予想とは全く異なっていた。しかしながら、この事実は乱流界面においてエントレインメントがどのように行われるのかというメカニズムにおいて極めて重要と認識している。 乱流界面において、エントレインメントが促進される構造と、抑制される構造とは何が異なるかを確認できれば、乱流境界層発達の予測と制御において新しい提案ができる可能性がある。今回の結果を参照すると、乱れエネルギーの収支がその鍵を握ることが期待される。乱流の活性度を上昇させるのは乱れエネルギーであり、その促進がどのように行われるのか、乱流領域と非乱流領域において各エネルギー収支が加速によりどのように影響を受けるか、非乱流領域から乱流領域へのエネルギーの伝達はあるのか、それはどのようにしてなされるのか、という疑問が生じることとなり、今後の研究における期待が増加した。エネルギー収支に基づき、再層流化において議論された項目が有効になると把握され、本研究の意義が増加した。
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今後の研究の推進方策 |
乱流と非乱流との識別方法に基づき、運動エネルギー収支の機構解明を進める。 当初の予定に従い、変動速度の5成分分割によりエネルギーの変換、拡散と散逸について調査していく。注目されるのは、非乱流領域から乱流領域へのエネルギーの変換、乱流領域における乱れエネルギーの生成、非乱流領域における乱れエネルギーの生成である。これらを導かれた輸送方程式の項の評価とその検討により把握していく。また、それらの項に含まれる変動速度の相関(通常のレイノルズ応力と同様な速度の相関)の分布を確認したい。これらの項の特徴に基づき、変換に主要な寄与をなす乱流の運動を推定することができる。具体的には推計学的な手法に基づき、相関分布を第一近似により表すことができる渦運動を把握する。渦運動の把握が完了すれば、その特徴、強度、寸法という定性的結果に加えて定量的指標に基づいた比較が可能となる。 今回の研究では、上記の解析を平衡な領域において活用し、零圧力勾配の結果との比較から構造の解明を行うことが主である。その場合、非平衡領域においてその構造に至る過程を明らかにすることは、より詳細な理解において極めて有効である。それには、初年度で開発したサブレイヤープレート法が寄与する。サブレイヤープレート法は非平衡な領域において壁面せん断応力の計測が可能であり、力学的基礎により流れを理解する最も優れた方法と考えられる壁法則の検証とともに、力学的考察が可能となる。変動速度の5成分分割による解析手法を非平衡領域の代表的位置における境界層に適用し、平衡状態における乱流境界層の理解をより明確なものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究計画は完了し、残額は10,000円未満であったため、次年度における研究に使用することとした。
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