キャビテーションを援用した強力集束超音波による結石破砕を対象に,マルチスケール・マルチフィジックス解析によって生体中のキャビテーションの力学的作用に関する知見を得た.本研究では,不均質媒体である生体中の超音波伝播において流体構造連成解析を可能にする一方で,気泡周囲の媒質に流体もしくは弾性体を考慮した気泡力学モデルを採用し,気泡界面における熱及び物質移動に加えて,気泡界面のスリップがある場合の気泡の並進運動方程式などの高度な物理モデルを導入したアプリケーションソフトウェアを開発した.解析によって得られた知見として,まず,気泡周囲媒質に溶存する不凝縮ガスの析出の有無によって,集束超音波焦点に形成される気泡クラウドの空間分布が圧力振幅が高いほど大きく異なることがわかった.次に,結石表面に生じる集束超音波の定在波音場において,成長した気泡がBjerknes力によって定在波の腹に集まる傾向がシミュレーションで再現され,とりわけ低周波数の超音波が生成する集束超音波音場で気泡クラウド内に局所的に高ボイド率の領域が形成されるなど,集束超音波における気泡の並進運動の影響に関する知見を得た.さらに,高周波と低周波の超音波を利用した結石破砕法に対する解析結果から,高周波数の超音波が結石表面で反射することで,追随する低周波数の超音波による結石表面から離れた位置での気泡クラウド生成が抑制されることや,高周波数の超音波に追随する低周波数の超音波波形を反転することによって,結石表面に形成された気泡クラウドの崩壊によって生じる最大圧力が増大されるなど,結石破砕法における超音波照射パラメータに関する知見を得た.これらは,近年注目されているキャビテーションを援用した集束超音波治療の安全性の向上と高効率化において重要な知見であり,開発されたソフトウェアは他の多くの集束超音波アプリケーションへの応用が期待できる.
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