ジメチルエーテル(以下DME)はCO2と再生可能エネルギーから製造可能なカーボンニュートラルに貢献できる合成燃料である。本研究では、煤を排出しない性質、改質平衡温度の低さといった特色を活かし、排気を用いてDMEを吸熱改質することによって排気熱を回収するとともに、改質によって生成した水素により石油系燃料では達成しえない超希薄高効率・クリーンエンジンを実現するための基礎的知見を得ることを目的とした。 最初に、詳細素反応モデルを用いた改質反応解析を実施したところ、先行研究の結果と異なり、エネルギー回収が可能な温度はガソリンより100K 程度高くする必要があることが明らかとなった。ただし、水素生成量はガソリン改質より多く、例えば排気温度700K で800Kにおけるガソリン改質反応と同等の水素を生成することがわかった。このことから、可燃範囲が広く、燃焼速度の速い水素を吸気系に導入することにより、ガソリンでは達成できない希薄燃焼を実現できる可能性が示された。 次に、実機実証のための改質システムの開発に取り組んだ。改質反応は水蒸気と改質燃料の混合割合に敏感で、排気組成に応じて供給燃料量を精度よく制御する必要がある。システムを構築する過程で、DMEを用いた場合、ある差圧以上で燃料供給インジェクタ流量が一定となるチョーク現象が生じ、流量制御が困難になることが新たな課題として浮かび上がった。そこで、インジェクタ内の流路を再現した可視化装置を構築して現象解明に取り組んだ。その結果、チョークを生じる条件では、流路入口で生じたキャビテーションが出口まで達していることがわかった。流路内流れの数値解析から、このチョーク現象はキャビテーションの発生に伴う流路有効断面積の現象、および気泡流となった領域では音速が急激に低下して、流速が音速に制限されることの二つの要因によって生じることを明らかにした。
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