本研究は,温度による体積の変化が顕著である感温性ゲルの微粒子を液中に分散させることにより,通常安定成層を形成する上部加熱・下部冷却系において粒子の浮沈によって生じる流動,あるいは粒子自身による熱輸送など,熱伝導と異なる熱輸送現象を発現させることを目的とする.令和元年度は,前年度に実験的に取得した10℃から40℃までの範囲で温度を設定したポリアクリル酸ナトリウム水溶液中における多孔質化N-イソプロピルアクリルアミドゲル粒子の密度・直径の測定値,および水溶液の各種物性値測定データを用いて,反復的な浮沈運動のモデル化を試みた.また,ゲル粒子の運動を妨げる,容器壁あるいは他のゲル粒子への付着抑制の試みとして,ゲル粒子表面への異種高分子層の形成を試みた.主な成果を以下に示す.1.球形のゲル粒子には重力,浮力,および抗力がはたらくとした.ゲル粒子の温度が周囲温度に到達するまでに時間を要するものと仮定し,また,ゲル粒子内外の水溶液の移動も同様に遅れがあるものと仮定し計算を行ったところ,周囲環境への応答が速い場合は振動的な挙動を示さないが,遅れをある程度大きく設定すると伝熱面付近に到達後一時静止し,数分後に逆方向への移動を開始するという安定した振幅挙動を示した.中間的な遅れの場合は実験で観察されたような,振幅の減衰を伴う往復運動が現れた.2.従来の球形ゲル粒子表面にポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラートを主成分とする層を重合させたゲル粒子の,傾斜面における転落角を評価することで液中における付着現象への表面層付与の影響を検討した.周囲流体を40℃の水としたところ表面層なしの粒子では垂直面でも付着し続けたが,表面層ありでは27度付近で転落した.しかし高分子水溶液中においては表面層ありでも付着が見られたことから,付着要因のさらなる検討や表面層成分の改善が必要である.
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