水素を含む混合流体の精密な熱物性計測は非常に困難であり,本研究ではこれまで,窓付きの試料容器を真空チャンバー内に設置して,臨界点近傍や飽和付近の現象観察を行うとともに,真空チャンバーの外に別途,内容積の大きな膨張容器を設置して,試料容器内の高圧試料を膨張容器に膨張させることで,膨張法を用いたPVT性質の測定を行ったが,臨界点近傍では,僅かな試料中の温度差が大きな密度差を生じ,流動現象が起こることが明らかとなった.また,膨張法では膨張容器と試料容器の温度が異なり,容器を接続する配管の温度分布が測定に大きな影響を与える.混合系の試料は第1成分を充填後,高圧の第2成分を追加して充填し,膨張後の試料の一部をサンプリングしてガスクロマトグラフによりその組成の決定を試みた.しかし,面積比と実際の組成の間に大きな非線形性があることから,水素混合系は組成の決定において,他の混合系よりもずっと不確かさが大きくなる.そこで,本研究では液体恒温槽を用いた計測システムに変更し,PVT性質の測定には等容法を採用した.分解能1 mgの精密電子天秤を用い,真空時および,第1成分,第2成分の各成分を試料容器に充填した後の各状態における容器の質量を測定することで,充填量を正確に測定できるだけでなく,水素の組成比も高い精度で決定できる.そのようにして水素 + 二酸化炭素の混合系について,PVT性質を0.1 %程度の小さい不確かさで測定することを可能にした.そこで,実測値を基に最新の状態方程式の評価,混合パラメータの検討を行い,輸送性質における相関式から状態曲面を計算し,とりわけ臨界点近傍を含む気液の飽和線や組成に依存する状態曲面の変化について明らかにした.
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