研究課題/領域番号 |
17K06200
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
岩本 光生 大分大学, 理工学部, 教授 (80232718)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ流体 / ミスト噴流冷却 / 衝突噴流 / ベナール対流 |
研究実績の概要 |
液体中にナノサイズの固体粒子を分散させたナノ流体は,ベース流体より熱伝導率が高い,沈殿しにくいなどの特徴を有し,伝熱材料として注目されている。本研究ではナノ流体を用いた冷却での伝熱特性を明らかにするため,今年度は下記の検討を行った。 (1)ミスト衝突噴流冷却実験 水を空気とともに加熱面に噴射すると,衝突噴流による伝熱促進に加え,水の蒸発潜熱により冷却性能が向上する。しかし高温加熱面では,衝突した液滴にライデンフロスト現象が生じ,伝熱性能が低下する。このため,ミスト中にナノ粒子を1vol.%混入したところ,ライデンフロスト現象を防止することができたが,噴射時間が長くなるとナノ粒子層が厚くなり,逆に伝熱性能が低下するという問題が生じた。このため,最初ナノ流体を噴射して加熱面上にナノ粒子層を形成し,そのあと水のミスト噴流冷却にすることにより,ナノ粒子層のない加熱面に,水のミスト噴流冷却を行う場合に対し熱伝達率が130~180%上昇することが分かった。さらに,加熱面の材質をステンレス,ニクロム,インコネル600に変更した場合についても測定を行った。 (2)ナノ流体の自然対流伝熱実験 内径100mm、高さ10mmの下方加熱、上方冷却の密閉容器内にナノ流体を満たし、自然対流実験によりナノ流体の熱伝達率を測定した。用いたナノ流体はAl2O3-水であり,ナノ粒子の直径は30~60nm,加熱面はヒーター加熱,冷却面は水冷している。実験ではヒーターへの入力電力や,ナノ流体の体積濃度を変化させ熱伝達率を測定した。この結果,ナノ流体はベース流体の水に対し熱伝導率は優れているが,自然対流における熱伝達率は水より低く,ナノ粒子の濃度が高くなるほど,それは顕著になることを示した。そしてそれは,ナノ粒子濃度の増加とともに,粘性が増加し,体膨張係数が低下することが理由ではないかと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は初年度として,下記の検討を行った。 (1)ミスト衝突噴流冷却実験装置の製作と実験:幅10mm×長さ30mm×厚さ0.03mmの金属薄膜を700K程度に直流加熱し,それに二流体ノズルから窒素ガスとともに水やナノ流体を噴射する実験装置を製作した。加熱面温度の時間変化は,金属薄膜の裏面にスポット溶接した0.1mmの熱電対と放射温度計により測定した。ナノ流体による衝突噴流冷却では,水のみの場合に対し,熱伝達率が最初上昇し,さらに噴射を続けると熱伝達率が低下していくという現象を生じた。この原因は加熱面上のナノ粒子層の熱抵抗のためと推察された。次に,最初ナノ粒子を含む流体を噴射して薄いナノ粒子層を形成した後,水のみの噴射に切り替えたところ,高い熱伝達率を維持することが出来た。また熱伝達率の粒子濃度の影響,基板材質による影響などについても検討を行った。 (2)自然対流におけるナノ流体の伝熱実験:内径100mm、高さ10mmのアクリル容器にナノ流体を満たし,下方を電気ヒーター,上方を恒温循環槽からの水で冷却する実験装置を製作した。まず下方冷却-上方加熱の熱伝導の状態で,入力電力と加熱-冷却面温度差より装置の熱損失を求めた。次に,実験槽内に蒸留水を入れ,下方加熱-上方冷却とした場合の自然対流実験を行い,既存の水の熱伝達率の報告と比較し本装置は5%以内の誤差であることを確認した。その後,Al2O3-水のナノ流体を用いた自然対流実験を行ったが,ナノ流体の熱伝達率は水より低い値となった。これはナノ流体の熱伝導率は水より高いが,ナノ流体は粒子濃度の増加とともに粘度が急激に増加し,またナノ流体の体膨張係数が低く,このため自然対流が抑制されるのが原因ではないかと推定している。 以上のように,実験装置の製作と,実験装置の検定,最初の基本的事項の実験が終了したため,上記達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間での研究を予定しており,1年目の平成29年度は予定していたミスト噴流冷却と,自然対流冷却の実験装置の製作と,実験を行った。今後は, (1)ミスト噴流冷却:加熱面上のナノ粒子層厚さの最適値について,さらに検討する。また加熱面上に堆積させたナノ粒子層が実験中に剥離する場合があり,表面状態によるその剥離しやすさなどについても引き続いて検討を行う。 (2)自然対流実験:平成29年度はAl2O3-水のナノ流体のみの実験を行ったが,ナノ粒子の材料の影響について検討を行うため,グラフェンなどの他のナノ粒子を用いた場合のナノ流体自然対流の熱伝達率について実験的に検討を行う。 (3)自然対流の数値解析:平成29年度の実験で,ナノ流体は熱伝導率が高いのに熱伝達率は低いという結果が得られた。このため,ナノ流体の濃度を下げていった場合,どの程度の濃度で,水のみの場合とナノ流体の熱伝達率の逆転が起きるかを数値解析により検討する。昨年度,実験でこれを試みたが,Al2O3固体粒子の体積濃度が0.5%程度以下ではナノ流体の粘性が低下するため,実験中にナノ粒子が加熱面上に沈殿するという現象が生じた。分散剤などを入れると物性値が変化するため,まず数値解析によりこれについて検討を行う。また実験では難しい,高いRa数領域での熱伝達率の変化についても検討し,実験との比較を行う。
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