研究課題/領域番号 |
17K06208
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
矢作 裕司 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (60265973)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 局所消炎 / オフセット対向流 / 渦 |
研究実績の概要 |
燃料希薄化の追求が著しい乱流予混合燃焼では,乱れの影響により火炎の一部が消炎する局所消炎が同時多発的に発生し,未燃焼ガスの放出や全体的消炎に発達する負の面がある.しかしながら,乱れの条件によっては,局所消炎部が高い確率で局所消炎から回復するために,全体的には燃焼を継続することができる.そのために,燃焼可能範囲が拡大する意外性と利点がある.その鍵は,乱流中の渦により熱と反応物が輸送され,局所消炎から回復させる機構を解明することであると考える.本研究は,非定常な希薄乱流燃焼で生じる局所消炎回復機構の研究課題で残された「渦輸送による局所消炎からの回復機構」を再現するための新実験モデル「オフセット対向流火炎」を用いて,燃焼ガス中の渦が熱と反応物を輸送することにより局所消炎から回復させる機構を再現して定量的に解明することを目的とする.初年度(2017年)は,実験装置を製作し、オフセット率0.4を境にスラント火炎および双曲線状火炎の2種類の異なる火炎が形成されたことに成功した.オフセット率が0.4以上で火炎背後のみに渦を形成さる双曲線形状の火炎となり、この火炎が主たる研究対象である.基本火炎構造と火炎背後に形成される渦構造の分類とそれに基づく消炎クライテリアの決定を行った.2018年度は、高速ビデオカメラにより撮影した消炎の瞬間までの一連の挙動、メタン空気およびプロパン空気火炎を用いたルイス効果および火炎背後の渦による消炎限界近傍での火炎振動現象と局所消炎現象など明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、当初申請書の研究実施フロー図に記載した2段階の局所燃焼速度の測定を行なっていたが、PIV(粒子画像流速計)用の光源に不具合が生じたために、第3段階の非均一火炎と複合火炎に対する実験(2019年度予定)を前倒しで実施した.また、現在までに、不具合が生じていた光源(YAGレーザー)は自力で修理が完了して、中断していた局所燃焼速度の測定が直ちに実施できる状態である.2018年度の主な成果を下記に示す. (1)局所消炎とその回復の時間・空間スケールの分類: 高速ビデオで撮影した消炎までの一連の挙動を解析した結果、火炎の一部が消炎する局所消炎が引き金となり、全体的な消炎に拡大する.現在、メタン空気火炎のデーターのであるが、局所消炎から全体消炎に至る時間は100ms程度であった. (2)局所燃焼速度: 局所燃焼速度の測定は、渦が形成される時に形成されるメタン空気双曲線状火炎を対象に実施した.局所燃焼速度は火炎位置により異なりオフセット0.5で当量比0.66の場合では、23cm/sから5cm/sまで空間的に変化している.測定制度については、まだ確信が持てないのさらなる検討が必要である. (3)ルイス数の影響:ルイス数効果については当初予定していなかったが、YAGレーザーの不具合のために局所燃焼速度の測定ができなくなったために実施した.ルイス数の影響は、メタン空気火炎とプロパン空気火炎の消炎限界を比較することから開始した.消炎限界は、非常に興味深い結果が2つ現れた.1つ目は、オフセット率0.4を境に現れるスラント火炎および双曲線状火炎の2つの火炎構造の違いがメタン空気火炎とプロパン空気火炎で明確に現れた.スラント火炎ではプロパン火炎の方が、メタン火炎より消炎しやすいが、双曲線状火炎では、両者の消炎限界に差は現れなかった.
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今後の研究の推進方策 |
2段階の局所燃焼速度の測定と第3段階の非均一燃焼状態[希薄予混合気 vs 超希薄予混合気]・複合燃焼状態 [希薄予混合気 vs 窒素希釈した燃料]に対する実験を中心に行う.局所燃焼速度の測定は、YAGレーザーの不調により、予定より遅れているが、第3段階の実験は、昨年前倒しで実施できたために総合的には、予定より、進んでいると判断している.従って、2段階の残りをはじめに実施してから3段階の不足分に検討を加えることとする. 局所燃焼速度の測定は、メタン空気火炎に対しては、全体の8割が完了しているために、プロパン空気火炎に対しても局所燃焼速度の実験を実施してルイス数効果が現れるかを検討する. 非均一燃焼と複合燃焼に対しては、撮影した高速ビデオの画像を解析して局所消炎とその回復の時間・空間スケール分類を行う.非均一燃焼・複合燃焼熱と反応物の渦による輸送機構を解明する. 総合的な結果として次の3点をまとめる.①火炎形状と背後の渦構造[局所消炎を含む場合と含まない場合].②局所燃焼速度の増加・減少と渦の関係,局所消炎の発生から回復と全体消炎までの過程を定量分析して,渦無しの場合より希薄な条件で燃焼可能な条件のマップ.③局所消炎からの回復機構として残された課題である渦による熱・反応物の輸送による回復機構の定量化から渦輸送回復機構を解る.上記の課題を解明する事により,希薄乱流予混合火炎の3つの局所消炎からの回復機構「排除消滅回復機構」・「自己伝播回復機構」・「渦輸送回復機構」の全てが完成する. 不明な最後のパズルピースの「渦輸送回復機構」を入れることで,部分負荷時の希薄乱流燃焼の限界を広げる学術基盤を完成させる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、YAGレーザーの不具合により局所燃焼速度の測定を一時中断し、最終年度に実施する予定の比較的コストのかからない実験を前倒しで実施したために、研究費が削減できた.また、予定していた国際会議などの成果発表を最終年度に集中させるために、旅費もほとんど使用していない.本年度は、すでに、国内および国際会議、各一件の投稿が確定しることや、昨年度分のコストのかかるレーザー計測を実施するために、昨年度分の研究費と本年度分を足してもやや不足している.
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