研究課題/領域番号 |
17K06211
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
中別府 修 明治大学, 理工学部, 専任教授 (50227873)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオカロリメトリ / MEMS / 代謝熱 / 高感度熱測定 / 単一個体 |
研究実績の概要 |
本研究は,MEMS熱計測技術の高安定化,高感度化を行い,バイオカロリメータにおいて,1nWレベルの発熱計測性能を達成し,微生物等の単一生体試料の生体イベントに関する直接代謝熱測定技術を提供することを目的としている。 2018年度には,前年度に改良したバイオカロリメータのアンプ,温度制御方法の調整を行い,カロリメータの静定を約1時間,5分間の平均ノイズレベルが2nWレベルと改善できた。また,酵母菌の増殖曲線を20nWレベルから検出し,約30時間で9μWまで増加し,その後,活動が急激に低下し,600nW~200nWの低活動状態へ入ることが計測できた。さらに,単一個体の代謝計測として,ブラインシュリンプの孵化過程において最大200nWレベルの発熱を伴い48時間程度で孵化することを計測できた。種子の発芽では,コカブの種子1個の発芽に対して,加水後20時間程度で発熱が急増し,24時間で約3μWの発熱を示すことが計測できた。 また,発熱計測のベースラインの再現性が低い問題に対して,模擬試料の発熱をペルチェ素子を用いた底面センサ,上面センサで計測する予備実験を行い,底面センサに90%レベル,上面センサに10%レベルの伝熱が生じていることを確認した。これは,試料セルからの伝熱経路が従来の底面センサのみではカバーできないことを示し,試料セルの設置に際しての接触熱抵抗の変化がベースラインへ影響を与えることを示唆するものである。よって,従来検討してきた底面のサーモパイルセンサによる発熱量の測定に加え,上面にも同様のサーモパイルセンサを配置した上下面センサの導入がベースライン安定性の向上に必要であると判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
製作したバイオカロリメータでは,温度制御やアンプのノイズ低減でノイズが2nWレベルに低下できることが確認された。加えて,ベースラインのドリフト低減として上下面センサの導入が有効であることを確認した。 目標とする1nWレベルの代謝熱計測には,サーモパイルセンサの熱電対配置数を30%増やし,上下面配置でさらに10%程度の感度向上を行い,共通利用設備である恒湿高温装置を用いて熱的外乱を低減することで,目標の達成を計画している。 単一個体の代謝熱計測としては,ブラインシュリンプに加え,ゼブラフィッシュの発生過程,アフリカツメガエルの発生過程など,比較的発熱レベルが高い試料による実験を予定しており,開発するバイオカロリメータの有用性を提示する準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
バイオカロリメータの計測レベルを1nWまで引き下げるため,当初の計画に加え,上下面にセンサを配置したカロリメータの製作を行う。サーモパイルの集積度の向上,開発してきたノイズ低減方法を総合し,目標を達成する。 バイオカロリメータの有用性を向上させる顕微観察との組合せは,低出力照明とISO感度200,000程度の高感度カメラの導入で,その実現性を判定する。 装置開発の成果を調べるために,酵母菌の増殖過程,ブラインシュリンプの孵化過程,種子の発芽過程,ゼブラフィッシュの受精卵の卵割過程等について,ナノワットレベルの代謝計測実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイオカロリメータの製作,評価を実施している中で,ベースライン安定性向上の糸口が見えない時期が予想以上にあり,当時の装置で試験を繰り返した。このため,予定していた予算の執行による研究の展開が遅れた。 年度終わりまでには,上下面センサの導入という方針が得られたため,次年度に装置製作,改善作業に今年度未執行であった助成金を使用する。
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