研究課題/領域番号 |
17K06228
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
増田 新 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (90252543)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 診断 / 状態監視 / 超音波 / センサ / 振動発電 / 圧電素子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,機械構造物に埋め込み可能な自己給電型アクティブセンシング技術の開発と,それを基盤とした自己状態監視ネットワークへの展開を示すことである.具体的には,構造中に埋め込んだ圧電体によって機械の稼働時の低次モード振動から取り出した電力を,発振回路を介して圧電体に戻すことによって周囲の構造中に超音波波動場を励起する技術,および励起された波動応答から構造健全性を評価する技術の確立を目指す.さらに複数個のセンサを弾性波動場を介して協調動作させる技術を開発することにより,孤立配置されたセンサノードからなる完全自立型の超音波アクティブセンサシステムによる構造の知能化を目指す. 第二年度である平成30年度は,引き続き要素技術の開発研究を行い以下の成果を得た. 単一の圧電素子,発電回路,発振回路からなる自己給電超音波発振回路の開発を継続して行った.当初計画では,蓄電電圧を監視して発振タイミングを統括制御するコントローラを設ける方針だったが,電力オーバーヘッドの大きいコントローラを必要としないより単純な構成の回路開発に目標を変更した.低周波数で動作する発電回路と高周波数で動作する発振回路を重畳し両者をコントローラレスで共存させ得ることを示し,シミュレータで動作を確認した. 二つの周波数からなる超音波波動の周波数混合効果を用いた損傷検知手法の検討を継続して行った.二つの周波数の平均値を掃引した場合の非線形応答のモデル化を行い,損傷部動特性の特徴付けが可能であるとの示唆を得た. 本研究で開発する自己給電アクティブセンサの利用形態の一つとして,歯車状態監視への適用可能性を引き続き検討した.今年度は回転する歯車対を用いた実験を行い,一方の歯車に貼付した圧電素子の高周波電流応答が歯のかみ合いに同期して変調すること,変調の強度が負荷トルクによって変動することを示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度報告書において示した今年度達成目標に加えて,初年度目標の「単一の圧電素子による自己給電超音波発振技術の確立」を方針変更のうえ今年度も継続し,発振開始のタイミングを制御するコントローラを廃したより単純かつ低損失な回路構成を目指すことにしたことが進捗遅れの原因である. その他の達成目標については以下のとおりである. 「周波数混合を用いた損傷検知システムの開発」についてはほぼ予定通りの進捗であるが,自己給電方式の方針変更により本技術への適用については今年度は保留した. 「圧電素子による機械要素の状態監視技術の検討」については予定通りの進捗である.初年度成果を踏まえて回転歯車における検討を行い,かみ合い周波数に同期した変調現象を確認,歯元損傷の影響については現在評価中である. 最後に,「複数の自己給電アクティブセンサ間の協調のための基礎技術の開発」についてはやや遅れた進捗である.圧電素子による発電機構のモデル化を行い,一つの圧電素子から励起された超音波振動が別の圧電素子に入力された際の相互作用を記述する数理モデルを作成したが,具体的にどのような協調動作が実現可能であるかの検討には至っていない.今後はモデルに基づくシミュレーションにより二つ以上の圧電素子の相互作用について考察を深め,構造物健全性評価への道筋を見いだしたい.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的は,機械構造物に埋め込み可能な自己給電型アクティブセンシング技術の開発と,それを基盤とした自己状態監視ネットワークへの展開を示すことである.最終年度においては,進捗の遅れを考慮した上で,研究目的に照らして次の三点を達成目標とする. 【自己給電発振回路技術の完成】H30年度の研究結果を踏まえて単一の圧電素子による自己給電超音波発振を行うための回路構成を決定する.発振特性への回路パラメータの影響を精査しこれらを決定するとともに,試験片における実装と動作検証を行う. 【複数の自己給電アクティブセンサの協調技術の開発】弾性波動場を介して複数の自己給電発振回路が協調動作する機序と様態を,H30年度に検討した数理モデルに基づいて明らかにし,試験片上に実装して動作検証を行う. 【構造健全性評価への展開】構造パラメータの変化が複数の自己給電発振回路の振る舞いに及ぼす影響を明らかにし,それを数量化して構造物健全性評価に用いる方法を見出す.周波数混合による方法についても適用可能性を検討する. なお,「圧電素子による機械要素の状態監視技術の検討」については歯車における検討を継続して行い,自己給電センサの適用可能性については研究期間終了までに判断する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた実験の一部が実施できなかったため.次年度請求分と合わせて実験材料等の物品費として使用する.
|