研究課題/領域番号 |
17K06237
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉浦 壽彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70265932)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 振動学 / 超音波 / ガイド波 / 非破壊評価 / ワイヤロープ |
研究実績の概要 |
ワイヤロープの劣化や断線等を同定する非破壊検査として用いられる漏洩磁束法や目視検査は,点計測型のため,コストや検査時間に難があり,ヒューマンエラーの危険もあることから,劣化や欠陥をより効率的かつ高精度に検出し得る非破壊評価手法の確立が求められている.超音波ガイド波は,平板や配管等の長大構造物に対して長手方向に遠距離を伝播するため,ワイヤロープの全面検査手法として用いることにより,メンテナンスの高効率化と高精度化が期待できる.また,初期段階の疲労き裂や微小なき裂を検出する高精度な非破壊検査法として,非線形超音波を利用した探傷法も期待されている.近年,ガイド波法と非線形超音波法の両メリットを有した非破壊検査法として,累積的高調波と呼ばれる非線形ガイド波による検査法が注目されている.しかし,ガイド波の特徴である長距離伝播を考慮した非線形ガイド波の挙動解明に関する研究はなされていない.本研究では,ガイド波によるワイヤロープの非破壊評価手法確立のために,累積的高調波を含む非線形ガイド波に着目し,伝播モードの直交性と多重尺度法を用いた理論解析により,ガイド波が長距離を伝播する際の動力学的な挙動を明らかにすることを目的とした. まず,最も単純なガイド波の一種であるLamb波について,支配方程式と境界条件より伝播モードの直交性を示し,さらに微分作用素の自己随伴性を用いて非同次問題の可解条件を導出した.つぎに,構造減衰を導入し,伝播モード直交性と多重尺度法を用いて,分散曲線と減衰曲線の導出を行った.得られた結果については,本研究室で作成した半解析的有限要素解析コードを用いて検証し,本手法の妥当性を確認した.さらに,累積的高調波と呼ばれる内部共振的ガイド波について,非線形連成の効果と減衰の効果を考慮したうえで,その伝播挙動を,伝播モード直交性と多重尺度法を用いて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガイド波によるワイヤロープの非破壊評価手法確立を目指して,累積的高調波を含む非線形ガイド波に着目し,伝播モードの直交性と多重尺度法を用いた理論解析により,ガイド波が長距離を伝播する際の複雑な動力学的な挙動の一部を明らかにできており,以下の通りの進捗状況のため,おおむね順調に進展していると判断する. 具体的には,まず最も単純なガイド波の一種であるLamb波について,支配方程式と境界条件より伝播モードの直交性を示し,さらに微分作用素の自己随伴性を用いて非同次問題の可解条件を導出した.つぎに,構造減衰を導入し,伝播モード直交性と多重尺度法を用いて,分散曲線と減衰曲線の導出を行った.得られた結果については,本研究室で作成した半解析的有限要素解析コードを用いて検証し,本手法の妥当性を確認した.さらに,累積的高調波と呼ばれる内部共振的ガイド波について,非線形連成の効果と減衰の効果を考慮したうえで,その伝播挙動を,伝播モード直交性と多重尺度法を用いて明らかにした. これらの解析で得られた結果について,今後,実験による検証を行うために,さらに準備を進めている.実験で用いる基本的なガイド波送受信システムの構成は,波形発生器→アンプ→送信用超音波探触子→検査対象試料(ワイヤロープ材)→受信用超音波探触子→プリアンプ→オシロスコープ,から成る.超音波探触子については,市販の圧電型超音波探触子を使用するほか,各種ガイド波モード用の電磁超音波探触子(永久磁石とコイルによる構成)を製作して使用している.また,ガイド波の周波数成分を絞って計測するために,周波数フィルター装置のデモを行って,購入を検討中である.探触子コイルへの通電電流を計測するために,ロゴスキーコイル型の電流プローブの購入も予定している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に得られた結果を基にして,2年目以降は以下のことに主に取組む.まず,上述のように,非線形ガイド波に関する解析結果について,実験による検証を進める.圧電型の超音波探触子に比べて,電磁超音波探触子の場合,永久磁石とコイルの配置構成の調整によって各種モードを選択的に励振しやすい.そこで,その構成を検討することにより,空間分解能を上げるために高次モードの選択的励振を試みて,ガイド波による非破壊評価への有効性を調べる. さらには,劣化や断線等に起因する非線形性によって,ガイド波のモード間に内部共振が起こり得て,その内部共振に基づくモード間相互作用によるモード変換に伴い,高次モードの励振が起こる可能性があり得る.この現象について,解析的に発生可能性を詳細に検討したうえで,数値解析と実験による検証を試みる. 数値解析としては,有限要素解析FEMと半有限要素解析SAFEの混合数値解析コードを開発し,これにより効率的に高精度でガイド波分散性や各モードの変位分布等を求め,幾何学形状等が伝播に及ぼす影響をさらに細かく分析する.さらに,素線間やストランド間の接触をモデル化し,その影響解明のために数値解析による検証を進める.特に,この接触に起因する減衰を考慮したガイド波伝播数値解析を実施し,減衰が伝播形態や分散性に与える影響をより詳細に調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
総額的にはほぼ予定通りの使用だが,実験試料費がやや安く済んだため,わずかな残額が生じた.超音波探触子や実験試料等の物品費,国際学会参加のための旅費,謝金,その他(学会参加費等)に使用する予定である.
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