研究課題/領域番号 |
17K06242
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
岩村 誠人 福岡大学, 工学部, 教授 (90341411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロボット / 省エネルギー / マルチボディダイナミクス / 受動ストレージ要素 |
研究実績の概要 |
近年,機械システムに対しても省エネルギー化の要求が非常に厳しくなっている.申請者は,既にシリアル型ロボットに適用可能な「受動ストレージ要素を利用した省エネルギー駆動法」を提案しており,提案手法に基づいて省エネ型SCARAロボットを試作し,従来よりも消費エネルギーを大幅に低減できることを確認している.しかし,位置決め精度が不十分,境界条件の変更が困難,などの課題を残している.また,提案手法は現状ではシリアル型ロボットに対してしか適用することができない.本研究では,それらの問題を解決し,提案手法を応用範囲の広い実用的な技術として確立することを目的とする. 平成29年度は,先に提案している省エネルギー駆動法の実用化,すなわち,位置決め精度の向上,境界条件設定の制約緩和を目指した研究を行った. 位置決め精度の向上を図るために,研究計画に沿ってまず適応制御法の適用を試みたが,モデル化できない非構造的外乱の影響が大きく,十分な精度を得ることができなかった.そこで,計算トルク法とディープラーニングを併用する制御法を新たに提案し,数値シミュレーションにより良好な性能が得られることを確認した. また,境界条件設定の制約を緩和するために,関節剛性を自由に変更し,系の固有振動数を任意に調整できる機構を新たに考案した.マルチボディダイナミクスを用いて提案した剛性可変機構の理論解析を行い,モックアップを製作して実験的にもその有効性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先に提案している省エネルギー駆動法では,関節部にばねを付加し,系の固有振動を利用して省エネルギー化を図っている.そのため,関節は自由に回転できる必要があり,関節にモータを有する従来のロボットには直接には適用することができない.そこで,関節は自由関節とし,リンク上の適当な位置に制御可能なフライホイールを設置して,そこからトルクを印加するようにする.また,回転ばねは剛性の調整が難しいため,2本の引張ばねと特殊なスプリングホルダーによって関節に剛性を付与する方法をとる.このような構造では,制御性能が系の物理パラメータに鋭敏に依存し,僅かなパラメータ誤差により位置決め誤差が生じる.そこで,未知パラメータが存在する場合でも良好な制御性能が期待できる適応制御を導入することを試みた.しかし,モデル化できない非構造的外乱の影響が大きく,所望の位置決め精度を得ることができなかった.そこで,計算トルク制御に加え,同定できない非線形外乱をディープラーニングにより補償する方法を新たに試みた.数値シミュレーションにより,良好な位置決め精度が得られることが確認された. また,提案手法では,始点または終点が変更されると系の固有振動を変える必要があるため,ばね剛性を変更しなければならない.しかし,境界条件が変更されるたびにばねを付け替えるのは不便であり実用的ではない.そこで,簡単な構造の剛性可変機構を新たに開発した.すなわち,スプリングホルダーのばねの取り付け点をスライドさせられるようにして関節剛性を随時調整できるようにした.マルチボディダイナミクスによる理論解析およびモックアップによる実験を通じて提案機構の有効性を確認した. 平成29年度中に剛性可変機構をロボットに実装して有効性を検証するところまでには至らなかったが,研究は当初の計画通りほぼ順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,まず平成29年度に開発した剛性可変機構を既存の消エネ型SCARAロボットに実装して有効性を確認した後,提案手法の適用範囲の拡張を目指した研究を行う. 提案手法は,ボディが直列に結合されたシリアル型ロボットのモデルに基づいて導出・定式化されているので,現状ではそれ以外のトポロジーを持つシステムに対しては直接には適用することができない.しかし,ロボットや工作機械等においては,木構造やループ構造のシステムも多く見られ,例えばパラレル型ロボットは近年急速にその利用範囲を広げている.そこで,複雑な機械システムのモデリング手法として高い汎用性を有するマルチボディダイナミクスを援用し,提案手法を任意構造のシステムに適用できるように拡張する.申請者は既にマルチボディダイナミクスと経路パラメータ法と呼ばれる手法を融合することによってループ構造を有するロボットの最小エネルギー軌道を見出すことを試みている.そこで,この手法を発展させて,対象とする任意構造のシステムのどの位置にどのようにばねを付加し,全体をどのように動かせば大きな省エネルギー効果が得られるかという問題を効率的に解くことができるアルゴリズムを確立する. また,ループ構造の例としてDELTAロボットを取り上げ,具体的に受動ストレージ要素と動作軌道の同時最適設計を行う.さらに,実験装置を製作して実機実験により拡張した提案手法の妥当性や得られる省エネルギー効果を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度中に,剛性可変機構を新たに製作し,現有の省エネ型SCARAロボットに実装する予定であったが,時間的に間に合わなかった.そのため,剛性可変機構の製作のために計上していた予算が未使用となり,次年度に繰り越しとなっている.この繰越金は平成30年度に当初の目的に沿って使用する予定である.
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