研究課題/領域番号 |
17K06257
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鈴木 陽介 金沢大学, フロンティア工学系, 助教 (20582331)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 触覚センサ / ソフトロボティクス |
研究実績の概要 |
昨年度提案した2層のシート状触覚センサをロボット指内部に封入することでマルチモーダルな触覚機能を実現することに主として取り組んだ。触覚センサ回路を実装するフレキシブル基板の改良により、マトリクス状に配置された触覚センサエレメント実装面から荷重分布重心位置(Center of Pressure, CoP)検出方式と荷重分布検出方式に基づく2通りの情報を選択的に取得可能な回路構成を開発した。ロボット指全体の構造設計・材料選定を行った。2層化したセンサから取得可能な触覚情報に関して3通りの組合せを採用したロボット指を製作し、特性試験によって、想定する把持動作やマニピュレーションによって各組合せの異なる利点を有しうることを確認した。 一方、導電性繊維材料とシリコーンゴムを用いて伸縮可能な触覚センサを構成する方法に関しては、4×4のマトリクス状のセンサにて特性試験を行った後、柔軟なロボットグリッパへの実装のために16×4の構成への拡張とセンサ回路の小型化を行った。しかしながら、配線経路の煩雑さが欠点のため把持実験を行う段階には至っていない。本方式に類似の方法として常温で液体の合金eGaInを用いた触覚センサの構成方法も提案されており、これを参考にした新たな構成方法により伸縮可能かつ配線の取り纏めも容易な触覚センサの構成方法を検討中である。 さらに、従来に無い柔軟ロボット指を構成するために、シリコーンゴムの硬化阻害を利用した新しい造形方法を開発している。3Dプリンタにより構成される骨部分とシリコーンゴムからなる皮膚から構成され、構造内部に意図的に硬化阻害を発生させることで滑らかな屈曲と高い柔軟性を兼ね備えた軸機構を構成可能とした。本ロボット指に対して、開発した触覚センサを搭載することを進めている。 以上の研究成果の一部を国内外の学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトの指の触覚のように深度の異なる触覚エレメントを構造内に形成する方法について、昨年度提案した2通りの構成方法のうち特に効果的であった、2層のシート状の触覚センサを用いる方法に基づくロボット指の設計・実装および試験・改良を行った。 シリコーンゴムで構成される柔軟指の内部に2層のシート状の触覚センサを封入する方法において、触覚センサの検出方式の組み合わせの検討を行った。検出方式の選択肢として、荷重分布重心位置(CoP)検出方式または荷重分布検出方式がある。前者はアナログ演算回路を介して情報を抽出することで、センサ実装面における荷重分布の重心位置と総荷重を高速に出力できる点が利点である。後者はセンサ実装面を16×8のマトリクスに分割した際の各エレメントに作用する荷重を分布情報として出力できる点が利点である。2層化する際に、(a)両層ともCoP型、(b)表面層をCoP型・内部層を分布型、(c)両層とも分布型の3通りを設計・製作して実験による検証を行った。各組合せにおける利点と欠点は、必要配線数・情報取得と情報処理にかかる時間・得られる情報の利用価値の観点から評価を行った。各方式にそれぞれ利点があると考察できる結果が得られたが、なかでも組合せ(b)ではCoP型触覚センサ情報に基づく高速なフィードバック制御によって適応的な動作を生成しつつ詳細な分布情報も取れるという利点が大きく、また組合せ(c)は把持物体との接触過程での圧力分布変化が異なる深度で観測できるため物体形状の詳細な理解において利点を有すると言える。また、2層化した際に表面層と内部層では感圧感度が異なるようにすることで広範囲の接触力を検知可能であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、硬化阻害を利用した柔軟なロボット指機構への腱駆動メカニズムの統合と触覚センサの搭載を行う。本ロボット指は非常に多くの自由度を有するため、一般的な腱駆動指よりも多くのワイヤを組み込み、その張力制御を触覚センサに基づく応答により行う仕組みを生成する。ロボット指の基本的な構成方法は確立済みであるが、内部にワイヤを通すための穴や関節部のクリアランス調整、触覚センサ用のアタッチメント部品の搭載が必要になると想定している。内部に実装する触覚センサには、まずはシンプルに構成可能なCoP型を用いる。基本的な適応的把持動作が実現されれば、情報収集のための分布型を層状に追加することを進めたい。 一方で、2層の触覚センサを有するロボット指による物体把持・マニピュレーションの研究を行う。3指から構成されるロボットハンドに搭載し、把持物体との接触状態を適切な状態に保つための適応動作と、その過程での荷重分布の変化から物体の特性を認識するための情報処理を、それぞれ階層的に実行可能なロボットシステムを構築することを計画している。
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