触覚は視覚・聴覚に続く、ヒューマンインターフェースに利用可能な感覚である。触覚を利用した人・機械間の相互通信を考えた場合,人が機械にアクセスするのは、スマートフォン等のタッチパネルに代表されるように触覚センサによって実現される。一方、機械から人間に作用する場合には、バイブレータのようなアクチュエータが必要となる。本研究では、極めて低消費電力かつ小型の触覚アクチュエータデバイスを実現することを目的としている。圧電薄膜と半導体微細加工を融合させた圧電MEMSをこの有望な候補とし、数mm角程度のサイズのデバイスが人に触覚刺激を与えうるかを実験的に調査した。Siをはじめとする半導体は微細加工が可能である反面、脆性材料であるという欠点がある。そのため、Si基板を使用しつつ、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の薄膜と感光性樹脂との組み合わせ構造を採用した。試作したデバイスは、4mm角でありながら共振駆動で4㎜の振幅で動作可能である。これを人の指に触れさせると,1.2mm以上の自由振幅があれば十分な刺激を与えることが可能であることが分かった。この時の消費電力は11マイクロワット程度であり、従来のモータ等に比べて極めて小さい。この初期実験を通じて、共振によって人に刺激を与えるメカニズムを集中定数系の等価回路で表し、電気回路シミュレータを援用した設計が可能であることを示した。さらに、このデバイスに4層の多層PZT薄膜を適用させ、駆動電圧が1.8Vまで低減可能であることを確認した他、アレイ化すると複数の時空間的刺激パターンを人に認識させることができること、変位センサを組み込むことで振動中変位をモニタリング可能であることから自励発振,自動化への応用が期待できることなどの関連成果を得た。
|