研究課題/領域番号 |
17K06273
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
池俣 吉人 帝京大学, 理工学部, 講師 (70467356)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒト走行 / 周期運動 / モデル / 平衡点 / 安定性 / 支援機 |
研究実績の概要 |
本研究では,ヒト歩行(受動歩行)で用いた解析手法を用いて,ヒト走行の主要原理である周期運動の生成及び安定化,脚運動の原理を解明する.さらに,同原理に基づいた走行支援機を開発する.同支援機を装着することで,より楽により速く走れるものと考えられる. 平成30年度は,前年度で導出したヒト走行の簡易モデルを用いて,平衡点生成とその安定化メカニズムについて解析した.まず,同モデルに平衡点となる条件を代入して,平衡点を解析的に導くと,正の実数解は一つだけとなった.次に,簡易モデルを平衡点近傍で線形近似して,平衡点の安定性を決める式を導出し,この式から平衡点が安定であることを示した.これらの解析から,ヒトは『前脚(着地脚)の姿勢が一定となるように着地する』ことで,安定した平衡点すなわち安定な走行を実現させていることが分かった. 数理モデルで得られた知見に基づいて,ヒト走行の簡易モデルの実機を開発した.実機は,2次元拘束したリムレスホイールをおもりで牽引するものとなっている.トレッドミル速度を変えたときのおもりの質量の挙動について実験を行った.トレッドミル速度を上げると,時速4kmまでおもりの質量は増加する.その運動の様子は歩行である.時速5km以上になると走行運動となる.時速6.5kmまでは,同じ走行運動を繰り返しており,安定な走行運動を実現させることに成功した.ここで興味深いことに,歩行から走行へと遷移すると,おもりの質量が大きく下がった.このことは,走行の移動効率は,歩行のときよりも高いことを示している.移動効率が向上した原因は,着地時の姿勢角度が鉛直に近づいたことで,着地時の損失エネルギーが小さくなったためである. 以上の知見を走行支援機に巧く活用することができれば,ヒトの走行速度や移動効率を大きく向上させることができるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,前年度で導出したヒト走行の簡易モデルを解析することで,平衡点生成とその安定化メカニズムを明らかにすることに成功した.また,数理モデルで得られた知見に基づいて,ヒト走行の簡易モデルの実機を開発し,安定した走行現象の実現に成功した.以上のことから,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度および平成30年度におけるヒト走行の解析は,離散的な状態(着地直後および離床時の状態)に注目した解析であり,その間の脚運動は考慮されていない.そこで最終年度では,一流アスリートの脚運動を受動走行の観点から解析して,その特徴と力学原理を明らかにする.南メソジスト大学Locomotor Performance LaboratoryのYoutube チャンネル「LocomotorLabSMU」において,一流アスリートの走行の様子が多数掲載されている.同動画を用いて,一流アスリートの脚運動を解析する予定である. モーター駆動による走行アシストは,安全性の低下,駆動系・制御系の搭載により重量の増加ならびにコストの増大等の問題がある.本研究では,ヒト走行原理に従うことにより,これらの問題を解決して,安心・安全・安価な走行支援機を開発する.ヒト走行の平衡点解析と実機モデルの実験から,『着地時の前脚の姿勢角度』が重要であることが分かっている.同運動をバネなどの受動的なものでアシストを行う.本学が保有している3Dプリンタなどを駆使することで,迅速かつ効率的に支援機を試作する.支援機の有効性は,ヒトに装着して検証(主観的評価)するだけでなく,ヒト走行の実機モデルに装着して検証する(客観的評価).もし有効であれば,実機モデルは水平面もしくは極低スロープを高効率かつ高速に走ることができるものと考えられる.なお,人を伴う実験(走行支援機の検証実験)については,「ヘルシンキ宣言」に従うとともに,研究実施機関である帝京大学の倫理委員会の承認を得て実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト走行の簡易実機モデルの実機として,受動歩行の簡易モデルであるリムレスホイールを採用したため,物品費が低予算となったことから,未使用額が生じた. 次年度は,走行支援機の開発のために,機械部品・アルミ部材・3Dプリンタ用樹脂・緩衝材などが必要になるので,次年度使用額もそれらの購入費用に充当する.
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