研究課題/領域番号 |
17K06276
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川本 広行 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50318763)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電磁力 / 静電力 / 粒子 / 帯電 / 個別要素法 / レーザープリンター / ルナダスト / メガソーラー |
研究実績の概要 |
電磁力によって粉粒体の運動を精密に制御し,工学的な価値を得るシステムには,レーザープリンターや集塵機をはじめとして様々なものがある.しかしながら粉粒体には,流体力学のような厳密な理論体系はなく,工学の現場では,経験に大きく依存する開発が行われている.また,電磁力,特に静電力を利用して粒子の操作を行う際に問題となる粒子の帯電(分布)や付着力に関しては,いまだ不明な点が多い.本研究はこのような現状を打破し,工学的に利用可能な理論とシミュレーション技法,および計測法を構築し,さらにこれらを具体的な問題へ適用して,この分野の産業の発展に寄与することを目的としている. 今年度はこの研究の初年度であり,まず基盤となる電磁粒体力学を構築し,これに必須な粒子の帯電と付着力に関して実験的な検討を行った.具体的には,帯電や衝突を繰り返しながら,粒子群が電磁界中でさまざまな機械的・電気的な力を受けて運動する動力学を体系化した.粒子の運動を非線形力学系に定式化し,これを多粒子系に発展させた.特に,シミュレーションを行うのに適したモデルを構築した. いっぽう,電磁力を利用して(特に10ミクロン以下の)小さな粒子の操作を行う際に問題となる粒子の帯電や付着力に関してはいまだ不明な点が多い.そこで,ミリカン実験に類似の装置を作成し,帯電量分布とその時間変化を測定した.さらに積分的なアプローチとして,ファラディケージを用いる方法によって,粒子郡全体の帯電量を測定した.これらを総合して,粒子に作用する静電力と静電付着力を推定した. 最後に,これまでの粒子群の動特性計算に広く用いられている個別要素法の課題である計算負荷の軽減を目的として,粒子衝突時の挙動を計算することなど,既存の個別要素法を大きく改変し,汎用的なPCでも実用的な近似解が得られるシミュレーション手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電磁粒体力学の構築:粒子の運動を表す基礎式はニュートン則であるが,粒子群の動特性を計算するためには,粒子の接触にともなう相互作用力や機械的な力などを,現実に則して精度よく計算することが必要である.そこで本研究では,準解析的な剛体球モデルにより,この問題を軽減するアルゴリズムを構築した. 粒子の帯電と付着力の解明:粒子に作用する静電力を計算するためには,粒子の帯電量とその分布を,時間変化も含めて正確に記述する必要がある.そこで,まず微分的なアプローチとして,最近発表されたサブミクロン単位の分解能で帯電分布を測定する手法を用いて帯電モデルを推定した.この問題に関しては,日本画像学会内の技術委員会と連携した.つぎに,ミリカン実験に類似の装置を作成して,帯電量分布とその時間変化を測定した.最後に積分的なアプローチとして,ファラディケージによって,粒子郡全体の帯電量を測定した.これらを総合して,粒子に作用する静電力と静電付着力を推定した. シミュレーション手法の開発:上述のように,オーソドックスな個別要素法では,粒子が接触した後の変形を逐次計算しなければならないため,時間ステップを相当短くする必要がある.さらに,電磁力が作用する場合には,粒子間の相互作用も含めて電磁力が時間の関数となるため,計算負荷が大きい.しかしながら特別な場合を除いて,粒子間の接触反力そのものが問題となることはあまりない.このため,粒子を剛体とみなして,衝撃方程式によって接触前後の速度と加速度を定める剛体球モデルによって計算時間の短縮を図った.また,周期境界条件や並列計算なども導入し,計算時間の短縮を図った.
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今後の研究の推進方策 |
計測技術の開発:モデルや計算結果の妥当性を評価し,さらに計算だけでは解明できない事象を把握するためには,対象を詳細に観測することが不可欠である.そこで平成30年度は,高速度顕微鏡カメラによる動的なその場 (in-situ) 観測とデジタルマイクロスコープによる静的な形状測定により定量的な評価が可能な計測技術を開発する. 工学問題への応用:上記の研究成果を具体的に下記の工学問題に適用する.応用の第一は,レーザープリンターである.この技術は,電磁力によるトナー粒子の位置と運動制御がキーであるが,現状では取り扱える粒子数の制限やモデルの不完全さゆえに,現実を直接模擬できるには至っていない.このため平成30年度は,現実の問題に直接適用でき,かつ現場の技術者が利用可能な技術を開発する.応用の第二は,宇宙開発への応用である.粒子が関与する問題として,月面や火星・小惑星上に存在する粒子のサンプルリターンやISRU (In-Situ Resource Utilization) のための粒子搬送・分別,宇宙服や機器に付着するダストのクリーニング,脱塵などがあり,本研究の成果をこれらの解決に応用する.一部JAXAとの協業を計画している.応用の第三は,上記の月面での静電クリーナーを地上のメガソーラーパネルや高層ビルのガラスに付着する粉塵のクリーニングに応用する研究である.これは,降雨がなく水が貴重で屋外作業が過酷な中東の砂漠地帯で切望されている技術であり,申請者(川本) がメンターとして参画している中東Qatarのプロジェクトをサポートする.
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の物品費が不要となったため、残額(52.130円)が生じた。平成30年度に、物品費として費消する予定である。
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