研究実績の概要 |
本研究の目的は、高い量子効率、ピコ秒程度の応答速度を有するマルチアルカリ光電面の形成とスミスパーセル超放射の実現である。平成30年度の成果に,光電面形成の第一段階のカリウム(K)―アンチモン(Sb)合金化には、量子効率の2回のピークが存在する事を明らかとした。さらにK-Sb合金化の過程は、その後のセシウム(Cs)化に重要な影響を及ぼすことを明らかとなった。 平成31年度では、K-Cs-Sb光電面形成の最適条件確立と量子効率(QE)の高寿命化を行った。K-Sb光電面形成の1回目、2回目のピークでK-Cs-Sb光電面を形成し、透過特性、QEを評価したところ、2回目のピークは、半導体が現れたのちに、Kが過剰に供給されていると考えられた。また1回目ピークでは、K供給量が不足し、K-Cs-Sb光電面のQEは数%であった。K供給量の最適条件を評価した結果、2回目ピーク到達までに必要な供給量の2/3程度で、その後に形成するK-Sb-CsのQEが10%を超えることが分かった。裏面より安定化ハロゲンランプを入射し,分光特性を評価したところ、K-Sb及びK-Cs-Sb光電面が半導体特性である事が確認された。分光光源を用い分光QEを評価したところ、禁制帯幅が1.77eV, 電子親和力が0.3eVの光電面である事を明らかにした。 スミスパーセル放射光に応用するために、長寿命化について評価を行った。最適な条件で形成したK-Cs-Sbを室温にしてQEを測定したところ、1時間で1/10程度まで低下する問題がある事が分かった。この状態の透過特性を評価した結果、バルクの状態には変化がないことが分かった。再度基板温度を上昇させたところ若干のQE改善が見られ、Cs供給をすると初期の状態まで回復した。これにより表面への不純物の吸着,Cs脱離による電子親和力が増加が原因だと考えられた。
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