研究課題/領域番号 |
17K06315
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
中川 聡子 東京都市大学, 工学部, 教授 (70134898)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高層ビル用エレベータ / 2重かご構造 / 非常停止時衝撃緩和 / 乗り心地向上 / 磁気粘性流体 / 制御ダンパ / 周波数重み関数 |
研究実績の概要 |
<研究の意義> めざましい経済発展を背景に超高層ビルの建設ラッシュに沸く国々では,安全で高速,かつ快適な乗り心地をもつエレベータが求められている。超高層ビルのエレベータは,深い縦抗内を大きな位置エネルギーと運動エネルギーをもって行き来する交通機関といえる。研究者は,①地震・ワイヤ切断・ブレーキ失効などの非常時の揺れを緩和させると共に,②超高層ビルエレベータ特有の「つりワイヤ縦振動」を軽減させるため,機能性流体(MR流体)注入の制御ダンパを使った新しいデバイスを提案する。この制御によって,①世界各国の安全基準にも柔軟に対応でき,②乗り心地改善が可能で,停電時にも③安定性が保持でき,④コンパクトかつ低電圧で使用できるなど,大きな利点をもつ。以上のことから,特に超高層ビル用エレベータに本デバイスを搭載することは,安全評価および感性評価において大きな意義がある。 <研究実績> 初年度の研究計画では,理論・シミュレーションにおいては,①提案する2重かご構成エレベータシステムの定式化,②エレベータ非常停止実験における実測ブレーキ特性のFFT解析結果および「乗り心地基準」で不快とされる周波数域を把握した上で制御系設計時に必要となる「周波数重み関数」を決定,③乗り心地悪化の原因となる釣りワイヤ特性および非常停止を誘発する各種外乱を把握することの,以上3点を挙げて研究がスタートした。これらについては全て完了し,学会等で報告済みである。一方,装置製作・実験に関しては,①小型実験装置の製作および直動サーボの構成,②新構成エレベータモデルに対応する大型実験装置の製作,③大きな減衰比変化が期待できる磁気粘性流体E-600をMRダンパに新規採用した際の界磁用コイルの電流とダンパ減衰比の関係を把握,④製作済の直動サーボのノイズ対策の,4点の研究計画に対しても全て完了し学会等で報告済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先の「研究実績の概要」にも述べたように,H29年度の研究計画では,I.理論・シミュレーションに関しては①②③の3項目,II.装置製作・実験に関しては①②③④の4項目を挙げている。これらについては,I-①では日本AEM学会誌および電気学会産業応用全国大会においてその成果を公表している。また,I-②,③においても,日本AEM学会MAGDAコンファレンスおよび電気学会産業応用全国大会においてその成果を公開している。一方,II-①②③④においては,IEEE国際会議INTERMAG,IEEE―MAGNETICS部門のTransaction,IEEE国際会議IECONでその成果を公表している。 この他にも,次年度からの地震時における当該システムの有効性を検証するための予備研究として,電気学会全国大会及び産業応用部門大会の論文集にて研究成果の公開を行っている。 これらの論文については,後述する「研究発表」の欄にすべて記載している。
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今後の研究の推進方策 |
1.今後の推進方策 おおむね計画通りに研究が進行しているため,H30年度も,当初の研究計画通りに進める予定である。 まず,I.理論・シミュレーションに関しては,①初年度に選定した周波数重み関数をもとに制御系設計を行い,②ワイヤ切断や地震時におけるエレベータかご内の衝撃緩和と,エレベータ釣りワイヤの伸縮特性で劣化する乗り心地の改善に向けた評価を行う。一方,II. 装置製作・実験では,①変位センサ,加速度センサを取り付けて,実験装置の制御系をLabviewにて構築し,②非常ブレーキ特性・ワイヤ伸縮特性・ワイヤ切断時や地震被災時などでのエレベータシステムへの外乱が,制作した直動サーボ指令によって生成できるところまで実験装置を作りこむ。なお,非常時のエレベータかご内の衝撃に関しては国際安全基準(EN-81) を,また乗り心地改善には,乗り心地基準(UTACV)を用いることで,それぞれの制御効果を検証することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
90万円程度の差額が生じた理由は,「旅費」での約10万円,「その他」での約20万円,「物品費」での約60万円である。ここで,「旅費」での差分である約10万円は,国際会議の航空運賃を早い段階から予約し,当初の予定より割安なチケットを購入できたことによるもので,次年度以降の学会発表に使用する計画である。また,「その他」における差分の約20万円は,初年度採択決定を受けた日本AEM学会正論文の掲載料が,次年度目にずれ込むことで生じたものである。したがってこの差額は,余剰というより次年度に使用されることとなる。また「物品費」の差分である約60万円であるが,分解能が高い位置センサーの購入のための計上であったが,高いスペックのものを購入するには計上額が不足している状態である。現状では,低い解像度のものを信号処理によって何とか補正して使っている状況である。ただ,予算内で中途半端なスペックのものを購入するより,次年度以降の海外旅費や学会参加費等に振り分けて研究を進め,成果を社会に発信することに使用したいと考えている。
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