研究課題/領域番号 |
17K06318
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
河野 昭彦 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (40597689)
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研究分担者 |
漆畑 広明 金沢工業大学, 工学部, 教授 (40723367)
藤田 洋司 金沢工業大学, 工学部, 教授 (40720222)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / モデル化 / シミュレーション工学 |
研究実績の概要 |
本年度は,昨年度に構築した『1粒子近似に基づくLIB物理モデルの支配方程式』の回路シミュレータ上での計算方法を検討した。活物質粒子中のLiイオン濃度を計算する球座標系拡散方程式,セパレータ部電解液中におけるLiイオン濃度を計算する直交座標系拡散方程式,バトラー・ボルマーの式およびネルンストの式等の回路シミュレータ上での計算手法を確立するとともに,これらの支配方程式と回路方程式の連成計算アルゴリズムの開発に成功した。以上により,回路シミュレータ上で動作するLIB物理モデルの構築が概ね完了した。開発モデルによる18650型LIBの充放電シミュレーションにおいて,一部のパラメータにチューニングが必要ではあるものの,開発モデルは実測値を高精度に再現し得ることが分かった。さらに,開発モデルでは,充放電時に時々刻々変化する活物質粒子中のLiイオン濃度等のLIB内部状態も計算可能であり,LIBの電気化学的状態推定にも展開出来る可能性が示唆された。 以上のような回路シミュレータ上で動作するLIB物理モデルは,筆者の知る限り他に類を見ない。本成果は企業からの関心を引き,産学連携に繋がりつつある。 また,3極式セルによるLIBの電気化学性能の実験的解析に関しては,セル構造設計が概ね完了し,LIB充放電時の正極および負極電位の分離測定,また単電極の電気化学インピーダンス測定等が可能となった。これらの結果の一部をモデル開発側に展開しており,理論と実験を両輪として本研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
回路シミュレータ上で動作するLIB物理モデルは概ね完成し,計算精度も良好である。開発モデルは,LIBの定電流充放電特性に加えて電位ステップ時の過渡電流も計算可能であるとともに,活物質粒子中のLiイオン濃度変化等のLIB内部状態も回路シミュレータ上で推算出来る。したがって,開発モデルは概ね当初構想通りとなっている言える。 以上のように,モデル開発が順調に進んだため,最終年度に実施予定である回路シミュレータ上での複合電気システムシミュレーションを試行的に実施した。具体的には開発モデルからなるLIBモジュールモデル,インバータ等の電力変換器モデル,モータモデルを回路シミュレータ上で接続し,システムレベルでのLIB動作シミュレーションを実施した。開発モデルは,このようなシステムシミュレーションにおいても概ね問題なく計算可能であることを確認することが出来た。 また,3極式セルによるLIBの電気化学性能の実験的解析も大きな問題もなく進んでいる。ただし,一部測定データの再現性が悪いことがあり,これはセルの作成精度に起因していると推測している。今後は,セルの作製精度向上に向けたセル作製工程の見直しを実施する予定である。 以上より,本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,特に,開発モデルを応用した複合電気システムシミュレーション技術の確立に注力する。具体的には,①システムを構成するコンポーネントモデルの整備及び②シミュレーション結果解析技術の深化を目指す。 ①に関しては,電気自動車(EV)のような実システムに即したシミュレーションモデルとするため,LIBモジュールモデルの容量や出力を実システムを参考に構築するとともに,電力変換器モデル,制御器モデル,モータモデル等の構成やスペックの検討を行う。また,実システムの運転パターンを反映したシミュレーションも必要となる。 ②に関しては,システム動作時におけるLIBの充放電挙動のみならず,コンポーネント間のエネルギーフローや損失の解析技術を構築する。さらには,システム運転パターンとLIB内部の電気化学的状態との相関,例えばモータ加減速に起因する頻繁な充放電の切り替わりに伴う活物質粒子表面におけるLiイオンの偏析等をより深く解析する。これにより,開発モデルのシステム設計や運転制御への有用性を示すとともに,システム中におけるLIBの安全性,信頼性を検討する。 また,3極式セルによる実験的解析において,セル作製のための冶具検討を実施し,セルの作製精度向上を図る。 なお,次年度が研究最終年度であるため,研究総括を行うとともに,学会発表や論文発表を積極的に実施し,研究成果を広く発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が大きな問題なく順調に進んだため,当初予定よりも消耗品費が抑えらえた。抑えられた費用は,次年度の電極購入や冶具等の消耗品費に充てる。
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