研究課題/領域番号 |
17K06323
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高橋 康人 同志社大学, 理工学部, 准教授 (90434290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電気機器 / 並列計算 / 有限要素法 / 磁気特性 / 鉄損 / ヒステリシス / 高効率化 |
研究実績の概要 |
空間的にも時間的にも大規模問題である実規模電気機器の高速・高精度な損失評価を目的として,本研究では空間分割型並列計算法と時間分割型並列計算法を融合し両者の特長を活かした新しい並列有限要素法の構築を目指す.本年度は第一段階として,空間的並列計算法として領域分割型並列有限要素法,時間的並列計算法としては時間分割数が少ない場合でも大きな速度向上効果が期待できる並列化TP-EEC法を採用し,静止器を対象とした空間分割・時間分割併用型並列有限要素法の開発を行った.提案手法の妥当性や速度向上率を検証するために,三相三脚変圧器の大規模磁界解析を実施した.その結果,領域分割型並列計算法の単独利用では十分な並列化効果を得られないような高並列計算環境下においても,並列化対象ループが異なる2種類の並列計算法を組み合わせることで並列化効率が改善され,さらなる計算速度向上を達成した.さらに,時間分割数と領域分割数の配分法についても,計算時間の観点で最適値が存在することを定量的に示した. 一方,開発手法をかご形誘導電動機の磁界解析にまで発展させるためには,回転子バーの本数に基づいて決定可能な特定のすべりにおいて成立する多相交流の時間周期性を考慮する必要がある.そこで本年度は,誘導機解析を目指した基礎的検討として,時間分割型並列計算法として採用している並列化TP-EEC法に多相交流時間周期条件を導入し,実機解析における有用性を検証した.その結果,非線形磁気特性を考慮した時間調和渦電流解析法による初期値決定法を組み合わせることで,大幅な収束性改善効果が得られることを明らかにした. さらに,電気機器の鉄心を構成する電磁鋼板の磁気特性測定,磁気特性データベースの構築およびベクトルヒステリシス特性を含めたモデル化なども,開発手法の実機解析への適用を視野に入れて実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には,領域分割型並列有限要素法と並列化TP-EEC法を組み合わせることで空間分割・時間分割併用型並列有限要素法を実現し,周囲構造物も考慮した実規模の三相三脚変圧器を対象として開発手法の有効性・並列化効果を検証した.また,2年目以降の課題である回転機解析,特に誘導電動機解析へ開発手法を発展させるため,多相交流時間周期条件を考慮した並列化TP-EEC法を実装し,かご形誘導電動機の定常特性解析における有効性を明らかにした.研究設備についても,本研究の遂行に必要なハードウェア・ソフトウェアの整備はほぼ完了している.したがって,本研究課題の進捗状況として,研究成果および研究環境整備の両面において,当初の計画と比較して非常に順調に進展していると考えている. 一方で,空間分割・時間分割併用型並列計算法における適切な時間分割数と空間分割数の配分法については検討の余地が残されており,最適配分の自動決定法確立に向けた種々の検討が必要と考えられる.また,初年度は研究立ち上げに注力したため,本研究の成果発表については不十分な面もある.しかしながら,研究成果の対外発表は2年目以降の重点項目として当初から計画しており,今後国際会議や論文誌への投稿も含めて積極的に対応していく予定である.また,開発手法は,現状では定常特性解析のみに対応しているが,電気機器設計段階では過渡的な機器特性を把握したいニーズも多くある.そこで,物理現象の時間的な周期性を活用できない過渡現象解析にまで対応可能な空間分割・時間分割併用型並列計算法の開発が望ましいと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2年目には,初年度に開発した空間分割・時間分割併用型並列計算法を回転機解析にまで拡張する.具体的には,回転子移動の考慮や誘導電動機では多相交流時間周期条条件の導入を実施する予定である.また,時間分割数と空間分割数の配分が並列化効果に与える影響についても,開発手法を用いてより多くの実規模電気機器解析を実施し,詳細な検討を行う.最終的に,インバータ駆動IPMモータの鉄損解析に適用し,開発手法の有効性や並列化効果を定量的に評価する. また,最終年度を見据え,電磁鋼板をはじめとする磁性材料の磁気特性測定やデータベースの構築,ヒステリシスモデル化法の高度化や実用性評価などを引き続き行っていく.最終的には,空間分割・時間分割併用型並列有限要素法を用いたヒステリシス磁界解析にまで発展させる予定である. 一方で,時間分割型並列計算法として採用している並列化TP-EEC法は定常特性解析に特化した計算手法であるため,モータの始動特性評価のような過渡現象解析には適用することができない.そこで,近年,応用数学やハイパフォーマンスコンピューティングをはじめとした様々な分野で盛んに検討されている並列時間積分法であるPararealに着目し,電気機器を対象とした過渡特性解析における有効性を検証するとともに,領域分割型並列計算法と組み合わせることで,空間分割・時間分割併用型並列計算法の汎用性向上を目指した基礎的な検討を実施する. 2年目以降の重点課題であった研究成果の発信については,国内外学会での発表・論文への投稿を積極的に進めていくとともに,各分野の一線の研究者・技術者の意見を取り入れることで開発手法のさらなる高度化を図る.
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