研究実績の概要 |
本研究は、有機金属を分子ドーピングした非晶質薄膜を独自のプロセスを用いて、サイズ・密度を制御したナノ人工ピンを超伝導薄膜中に形成する独創的手法を開発することにより、従来に無い極めて高い臨界電流輸送能力を有する超伝導薄膜材料を実現するとともに、薄膜形成過程、及び酸化物高温超伝導薄膜におけるナノ人工ピンと磁束量子との相互作用について解明することを目的としている。今年度は、前年度で明らかとなった分子ドーピングに適した有機金属元素を基に、種々のプロセス条件で超伝導薄膜を作製し、超伝導電流輸送特性との関係を明確にするための研究を遂行した。その結果、テトラキスZr分子の添加により、薄膜の結晶成長が促進され、さらに表面性も向上することが明らかとなった。これにより、臨界電流密度が大きく向上することがわかった。また、テトラキスHfを用いてHfを分子ドーピングすることにより磁場中の臨界電流密度特性(アルファ値)が向上した。また、希土類元素を2種類以上としたGd:Eu=8:2の比率を有する(Gd,Eu)BCO薄膜および(Gd:Eu:Ho)BCO薄膜において、臨界電流密度およびアルファ値が大きく改善された。さらに、超伝導相の結晶化プロセスにおける金属ステージを用いた熱伝導方式及び結晶化プロセス後の冷却過程を制御することにより、表面性及び超伝導特性が向上すること、及び熱処理温度の低温化が可能であることを明らかにした。また、超伝導薄膜における量子磁束捕捉特性の解明を目的として、HfとLaを共ドーピングしたGdBCO超伝導薄膜のピニング力と実効ピニング密度について解析を行った。その結果、HfとLaを共ドーピングはピニング力を約1.6倍に向上させた。これらの結果から、HfとLaの共ドーピングにより低磁場から高磁場までのピニング特性向上に効果があり、有効な人工ピニングセンターが形成されていることがわかった。
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