研究課題
本研究は,ナノシートの積層構造からなるナノシート束を作製し,そのモルフォロジー及び構造制御を行うプロセスを開発する事を目的としている.従来のSiナノシー束の構造をもとにSiナノシートにMg2Siを堆積させMg2Si/Siナノシート コンポジットを作製した.これはCaSi2結晶粉末をMgCl2雰囲気中にて熱処理を施す事により得られる.さらにMgCl2の添加量を過剰にする事によりMg2Siナノシートを作製した.またソースとしてMg金属を添加することによりMg2Si生成が促進されたコンポジットを得る事ができた.一方CaSi2結晶をMnCl2/NH4Cl雰囲気中にて熱処理を施すことによりSiナノシート/Siナノワイヤ複合体を作製した.これは添加されたMnがSiナノワイヤ成長の触媒として作用すると考えられる.これらのナノシート束は熱電発電およびLiイオン電池の電極に有用である.CaSi2結晶粉末を適量のO2(H2Oも含むと考えられる)とともに過剰のMgCl2を添加し熱処理を施す事によりマグネシウムシリケートナノシート束を作製した.Mgのより均一な添加によりシリケート束の生成が促進されたと考えられる.CaSi2よりCaを引き抜く事だけでなく,Mg原子を添加する事により化合物ナノシート束が得られたことはSiナノシートの構造改変技術の発展において重要なステップであると考えられる.Mg2Si/Siナノシートコンポジット粉末とCu微粒子が担持したCaSi2結晶粉末を混合し放電プラズマ焼結によりミリサイズのペレットを得た.さらにCa及びGeより不活性ガス雰囲気中の熱処理によりCaGe2結晶を作製し,続くIP6処理によりGeナノシート束を作製した.フリースタンディングなGeナノシート束が得られた事により材料設計の幅が広がり,Si系ナノシート束との融合により熱電発電素子などへの応用が期待されている.
2: おおむね順調に進展している
1年目には,ナノシートが積層したナノシート束を作製し,2年目においてはナノシート束の構造制御・構造改変を中心に検討し,改変したナノシート束の物性を評価した.これまで作製してきたナノシート束はSiとその酸化物SiOxからなる基本的な構造のナノシート束であったが,2年目にはSiナノシート表面にシリサイドを堆積させたシリサイド/ Siナノシート コンポジット,シリサイド或いはシリケートからなるナノシート束,ナノシート/ナノワイヤ複合体の作製など,ナノシートの構造改変,装飾を行った.CaSi2結晶をMgCl2雰囲気下にて熱処理を施すことによりMg2Si/Siナノシート コンポジットを作製した.一方,熱処理時において4%程度の酸素(H2O含む)を添加する事により シリケートナノシート束を作製した.今後他の様々なシリサイドナノシート,化合物のナノシートを作製していく予定である.またCaGe2をテンプレートとしてGeナノシート束を作製した.Siとは異なる材料で同様の構造が得られたことによりSi系ナノシート束との融合により材料設計の幅が広がる事が期待できる.さらにCaSi2結晶をMnCl2/NH4Cl雰囲気下にて熱処理を施すことによりナノシート表面にナノワイヤが成長したSiナノシート/ナノワイヤ複合体を作製した.これにより単にシートが束になったものだけでなく,形状そのものをより複雑化していく可能性を示した.ナノシート束から実用サイズの大きさの結晶塊を得るためスパークリングプラズマ焼結(SPS)を行った.このための前処理としてナノシート束粉末にバインダーとしてのCuナノ粒子を担持させる方法を開発した.これまで作製したシリサイド束の構造および光学的特性をはじめ,簡易的に電気特性,熱電特性を評価した.これまでに作製されていたSiナノシート束の構造改変を行うための手法を開発した.
これまでナノシート束の組成・結晶構造を造り分ける制御技術を確立し,さらにナノシートの構造制御・構造改変を行ってきた.3年目には,これまで作製してきたナノシート束の物性評価と熱電半導体素子への応用を試みるとともに,Liイオン電池,太陽電池の電極への応用を検討する.同時に物性評価結果をナノ構造作製プロセスにフィードバックし特性向上をはかる.ナノ構造熱電素子への応用のため,Mg2Siナノシート束(必要によりMg2Si/Siナノシート束を含む)をSPS法或いは熱処理法により焼結し実用サイズ(~5mm程度)の電極を作製する.この際適切なバインダー材料を気相反応或いは溶液中でのナノ粒子作製方法を用いて添加する.同様にMnSi1.7を含むナノシート束を用いて電極を作製する.同時にナノシート束の諸物性を検証する.電子顕微鏡観察,X線回折法による評価に加え,電気特性,ゼーベック係数,ラマン散乱,XPS, FTIRなどを評価する.またホトルミネッセンス,カソードルミネッセンスを測定し光学特性,ナノ構造化による量子効果を検証する.これまで作製してきたSiナノシート束にはCaが脱離したSiナノシートに於いてもCaSi2(0003)面に相当する概ね1nmの周期が維持されている事が分かっている.Mg2Siナノシート束(Mg2Si/Siナノシート束を含む)及びMnSi1.7を含むナノシート束を用いて焼結体を作製する場合においても,同様の周期性が維持されるようプロセス全体の処理条件を最適化する.必要によりCaが脱離されたあと表面処理を施すプロセスを追加する.この場合,気相反応プロセスにおいて新しい還元作用を有するソースを添加する,或いは溶液処理を施すプロセスを追加する等により表面制御を行う.このように,これまでにない新規なナノシート束(塊)を創生しつつエネルギーデバイスへの応用を検討する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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