研究課題/領域番号 |
17K06353
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
永松 秀一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (70404093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 導電性高分子 / 高分子物理 / 結晶成長 / 吸着 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
【高品質なポリチオフェン系高分子結晶構造体薄膜の吸着条件の最適化】ポリ(3-アルキルチオフェン)(P3HT)について、ガラス基板上への吸着堆積法による薄膜化において、トルエン、p-キシレン等のいずれの溶媒を用いた場合でも同濃度・同温度・同時間での、飽和吸着量は同程度であることを確認した。吸着量に関しては溶媒種よりも高分子構造と基板表面との相互作用によると推察される。トルエンを基本溶媒として、分散液の濃度、吸着時間をパラメータに、形成膜の光吸収分光測定や原子間力顕微鏡による形状観察などにより評価し、最適な吸着条件の探索を行った。光吸収分光測定による吸着量の評価では、分散液の濃度に対する依存性はほとんど観測されず、吸着時間が主なパラメータであることを明らかにした。一方で、分散液の濃度は吸着膜の表面形状に大きく影響し高濃度分散液では粗い表面形状を示すことが分かった。また高移動度を示すポリチオフェン誘導体であるpBTTT-C14について懸濁液及び吸着薄膜の形成を行った。pBTTT-C14は難溶性でありトルエンに対して0.1mg/mlの低濃度であっても高温時は溶液であり、室温では懸濁液となった。pBTTT-C14では吸着基板の表面修飾において長鎖アルキル表面において均質な薄膜が得られることを確認した。これは高分子側鎖と表面分子との相互作用が吸着パラメータであることを示唆している。P3HT,pBTTT-C14それぞれの吸着薄膜を用いたFETを作製したところ、一般的なスピンコート膜に比べ超薄膜である吸着薄膜を用いても遜色ない性能を示すFETの作製に成功した。これらの結果より、吸着堆積法を用いることで、有機半導体材料の溶解性の不必要さと材料損失の低減を実現する、新たな薄膜作成手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
P3HTの吸着パラメータについて、吸着時間が主パラメータであること、また、分散液濃度が表面形状に影響を及ぼすことを明らかにした。またP3HTに加えて、pBTTT-C14についても吸着堆積法により超薄膜を形成できることを確認した。pBTTT-C14は難溶性であり、印刷プロセスを適用した場合、高温での溶液処理が必須であるが、本研究の吸着堆積法のより室温での薄膜の作製が可能となった。pBTTT-C14については分散懸濁液の調整条件を詳細に調査する必要があり、今後検討する予定である。P3HT,pBTTT-C14の吸着薄膜を用いたFETでは、いずれも良好な特性を観察できた。今後、吸着堆積薄膜の高品質化を後熱処理により実施する予定である。pBTTT-C14についてはP3HTほどの懸濁液調整条件の最適化を行えておらず、条件の最適化についても今後実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
吸着堆積法は液中での固液界面における吸着現象により薄膜を得る。吸着薄膜は基本的に分散液中のナノ構造体の形状を反映しているが、後熱処理などにより高品質化できると考えられる。 【吸着薄膜の高品質・高性能化】単純な吸着薄膜のみならず、後熱処理等のポストプロセスによる吸着薄膜の高品質化を行う。吸着した結晶構造体間の結合性改質や、液相では得られない新たな結晶構造体への相転移などの、吸着薄膜膜の高品質化の指針を探求する。予備的な実験ではpBTTT-C14については熱処理によりFET性能が向上することを確認している。そこで、今後はpBTTT-C14の吸着堆積膜に対して後熱処理を施し、分光測定・表面形状観察及びFET特性評価から、ナノ構造体吸着堆積薄膜の高品質化を試みる。
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