【吸着薄膜の高品質・高性能化】高移動度を示すポリチオフェン誘導体であるpBTTT-C14の吸着堆積膜について、後熱処理による吸着薄膜の高品質化を行った。比較のためスピンコート膜およびドロップキャスト膜についても同様の実験を行った。得られた薄膜の原子間力顕微鏡による表面形状観察を行った。吸着堆積膜では懸濁液由来のナノファイバー状の構造体を観察したのに対し、スピンコート膜では均質な表面形状を観察し非晶質膜であると推察される。またドロップキャスト膜では海島構造を観察し非晶領域に結晶領域が点在していると推察される。これらの薄膜に後熱処理を施したところ160℃の熱処理までは光吸収分光測定により結晶性の向上が確認できた。また熱処理後の表面形状観察では、スピンコート膜では結晶性の向上による結晶領域の発現、キャスト膜では同様に結晶領域の増加及びそれに伴う表面粗さの増大を確認した。吸着堆積膜では熱処理に伴う表面形状の大きな変化は観察されずナノファイバー状構造体を維持していることを確認した。吸着堆積膜では、熱処理によるFETのオン電流の向上とともにオフ電流が著しく改善されていることを確認した。この現象は、他の薄膜では確認されず、ナノファイバー構造体の熱処理により初めて観測された。非晶質領域を伴う薄膜では、熱処理により結晶性の向上と共に、電荷輸送を阻害すると考えられる非晶質・結晶粒界も増大する。一方、吸着堆積膜では、熱処理によりナノファイバー間の結合が改善したのみで、電荷輸送を阻害する要因の増大はなかったものと推察される。これらの結果より、吸着堆積法では有機半導体高分子のナノファイバー状構造体により形成されるの高結晶性薄膜を形成でき、更に後熱処理により吸着堆積膜の高品質化・高性能化の実現に成功し、新たな薄膜作成手法を確立した。
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