研究課題
本研究では、通常のInGaN混晶に対し大きな屈折率と、コヒーレント厚膜積層が可能な優位性をもつ擬似InGaN混晶により、窒化物系半導体レーザーの新しい導波光制御構造を提案し、その素子応用にむけた基盤的技術の開拓を行うことを目的とした。まずは従来のInGaN系半導体レーザーで閾電流密度が増大し始める発振波長460nmを目標に、InN/GaN短周期超格子(SPS)からなる擬似InGaN混晶により構成される光導波構造の、閾電流密度低減と発振波長の長波長側拡大に対する有効性の実証を目指した。本構造を導入した具体的素子設計指針を明らかにするため、今年度も前年度に続きInN/GaN-SPSおよびその基礎構造である1分子層(ML)-InNの基礎的物性および物性制御方法の解明に注力し、以下の成果を得た。SPS全体の層厚が100-130 nm、GaN層厚が7-9 MLのInN/GaN-SPSにおいてバンド端近傍のポテンシャル揺らぎを評価し、同等のバンドギャップを有する通常のInGaN混晶に対し、ポテンシャル揺らぎを抑制できる可能性を明らかにした。更にバンド構造を明らかにするため、光変調反射分光(PR)によりSPSのバンド構造評価を試みた。室温PRスペクトルでは、フォトルミネッセンス(PL)発光ピークのやや高エネルギー側にSPSによる光学遷移が観測された。本構造でバンド構造の形成を観測した報告はこれまでなく、更に解析を進めれば、SPSのバンド構造を詳細に解明できる可能性があることが分かった。またSPSの基礎構造である1ML-InNでは、PLおよび励起スペクトルの解析により、励起子再結合が支配的な再結合過程であることが示唆された。以上の成果は、今後、更に構造制御技術を向上させれば、SPSにより半導体レーザーの発光層や光導波路の高機能化が十分可能であることを示すものであると考えられる。
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