研究課題/領域番号 |
17K06362
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研究機関 | 米子工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田中 博美 米子工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60511491)
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研究分担者 |
及川 大 豊田工業高等専門学校, 電気・電子システム工学科, 講師 (40707808)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子・電気材料 / 解析・評価 |
研究実績の概要 |
本研究は未利用周波数帯であるテラヘルツ(THz)波を高出力発振できる素子を作製することを目指す。素子作製にはBi系高温超伝導体の内部構造である固有ジョセフソン接合を利用する。また、Bi系高温超伝導体には高出力化に必要な“高い臨界電流密度”と“優れた放熱性”を兼ね備えた針状単結晶(ウィスカー)を採用した。具体的には以下の2点について検討を行う。 ① Bi系高温超伝導ウィスカーのJcを改善し、THz波発振素子への投入電力を増加させる。 ② 放熱性に優れるウィスカー単独型のTHz波発振素子を作製しジョセフソン特性およびTHz波の発振を観測する。 ③ 汎用型バルク敏感光電子分光法を用いてJc改善およびTHz波発振素子の作製プロセスにおける電子/化学結合状態の変化を調べる(①と②にフィードバックする)。 特に本年度はBi系超伝導ウィスカーにおけるJc特性改善を行うため、①のBi系超伝導材料におけるJc増大に取り組んだ。 これまでの経験則から、大気中の水分を吸収したBi系超伝導材料が高いJc値を示すことがあることを知っていた。そこで、Bi系超伝導ウィスカーを部分的に水と接触させ、表面に非超伝導層を形成するという表面改質処理を施した。処理を施した試料の評価は、4端子通電法による電気輸送特性評価および原子間力顕微鏡による表面形態観察等により行った。実験の結果、Bi系高温超伝導ウィスカーの表面電気抵抗が処理時間~0.5minにおいて急激に増加することが分かった。そしてこの時、Jc値も増加し処理前より約14%改善することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究でBi系高温超伝導ウィスカーと水との反応を利用した表面改質処理により、高Jc化が実現できることを明らかにした。特に、水との反応では0.5min程度の短時間の処理でJc値が1割以上改善されることを突き止めた。一方で、水との反応層は一定の厚みで飽和し、Jc増大には上限があることが予測される。そこで、不純物添加により格子歪を作り、磁束捕捉が生じ易くする手法も平行して進めている。これにより、一層高いJcを有するBi系高温超伝導ウィスカーが作製できつつある。以上のことから、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
① Bi系高温超伝導ウィスカーの性能向上 Bi系高温超伝導ウィスカーのJc値を一層改善するため、表面改質法に加えて、局所的なナノスケール結晶構造歪を導入する。ナノスケール結晶構造歪を導入するためには、添加元素に「構成元素と同族でイオン半径のみが異なる元素」を添加する。添加元素の種類と量を種々に変えて最適化することでJc値の改善に繋がるかどうか調べる。また、添加元素時に成長効率が低下する可能性が高い。そこで、過多な異種元素添加状況でも作製を可能にする高温前処理法や触媒添加法を必要に応じて導入する。 ② Bi系超伝導ウィスカー単独型発振素子による放熱性の改善 希塩酸改質法およびポリイミド加工法を用いてBi系高温超伝導ウィスカーにおける電流経路を内在する固有ジョセフソン接合の方向(c軸方向)へ偏向する。特に、発熱効果と密接な関係がある電流-電圧特性や抵抗-温度特性の変化について系統的な評価を行う。 ③ Bi系超伝導材料の電子/化学状態解析 平成29年度計画の①と②で作製した試料において、表面処理による化学結合状態へのダメージ等の情報をフィードバックする必要がある。この評価は微小部光電子分光装置(μXPS) (島津Kratos製、AXIS-ULTRA)を用いた分析により行う。
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