研究課題
本研究は未利用周波数帯であるテラヘルツ(THz)波を高出力発振できる素子を作製することを目指す。素子作製にはBi系高温超伝導体の内部構造である固有ジョセフソン接合を利用する。また、Bi系高温超伝導体には高出力化に必要な“高い臨界電流密度”と“優れた放熱性”を兼ね備えた針状単結晶(ウィスカー)を採用した。具体的には以下の3点について検討を行う。① Bi系高温超伝導ウィスカーのJcを改善し、THz波発振素子への投入電力を増加させる。② 放熱性に優れるウィスカー単独型のTHz波発振素子を作製しジョセフソン特性およびTHz波の発振を観測する。③ 汎用型バルク敏感光電子分光法を用いてJc改善およびTHz波発振素子の作製プロセスにおける電子/化学結合状態の変化を調べる(①と②にフィードバックする)。本年度は、Jc値の更なる増加のためBi系超伝導ウィスカーに対して“表面改質処理”を施す際の水浸処理時間について検討を行なった。その結果、5時間以上の長時間の水浸処理はJc向上には効果が無いことが分かった。これは、表面に形成される水和物層が厚すぎて、有効電流面積が逆に減少したためであると考えられる。またジョセフソン特性の観測を目指してウィスカー単独型の素子を作製し、特性評価を行なった。具体的には①で作製した高Jc - Bi系高温超伝導ウィスカーに対して低温での水素アニール処理を行ない、電流経路を偏向するプロセスを施した。これにより、Bi系高温超伝導ウィスカーに内在する固有ジョセフソン接合を利用できる単独型素子を作製に成功した。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究では、水との反応を利用した表面改質処理でJcを改善したBi系高温超伝導ウィスカーにおいて単独型素子を作製し、THz発振に必要なジョセフソン接合特性が得られた。ジョセフソン接合特性を得るための処理である水素アニール処理法は、簡便な手法であり今後、一層の発展が期待できる。以上のことから、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
① Bi系超伝導ウィスカー単独型発振素子による放熱性の改善作製した高Jc - Bi系高温超伝導ウィスカーに対して引き続き水素アニール処理法を適用する。その際、アニール条件等の素子作製プロセスを最適化し、接合数や抵抗値等の重要な素子パラメータを制御可能かどうか検証する。② Bi系超伝導材料の電子/化学状態解析①で作製した試料において、表面処理による化学結合状態へのダメージ等の情報をフィードバックする必要がある。この評価は微小部光電子分光装置(μXPS) (島津Kratos製、AXIS-ULTRA)を用いた分析により行う。
新たな共同研究先の協力により、開発中の単独型テラヘルツ(THz)波発振素子をより多角的に評価できるようになってきた。そこで、本研究の目的である「高出力THzデバイスの実現」を高い再現性を持って達成するためにも、追加実験の実施が必要であると判断し、延長手続きを行なった。延長期間の必要経費(研究旅費、消耗品等)として、残額を使用する予定である。
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