研究課題/領域番号 |
17K06366
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石田 暢之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (10451444)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム / 走査型トンネル顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / 欠陥 |
研究実績の概要 |
窒化ガリウム(GaN)を利用した電子デバイスは結晶中に存在する欠陥や転位により、性能が大きく低下することが知られている。しかし、これまで欠陥評価技術がほとんど無かったために、これらの物性に関する知見はほとんど得られていない。本研究では、GaN中の欠陥や転位を原子スケールで評価する技術を開発し、欠陥の作る電子状態や欠陥周辺のポテンシャル分布の評価を試みる。平成29年度までに、劈開法によるGaN(1-100)表面の作製法の最適化に取り組み、原子レベルで平坦な表面の作製が可能となった。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)計測から、欠陥や不純物に由来すると考えられるいくつかの特徴を観察することに成功した。しかしながら、原子配列ではなく電子状態に敏感なSTMだけではその構造を決定するのが困難であることも分かった。 そこで30年度はSTM観察に加え、表面構造に敏感な原子間力顕微鏡(AFM)による表面観察に取り組んだ。まず、ほとんど経験の無い原子分解能AFM計測技術を習得するために、探針調整法や測定条件の最適化をSi(111)表面を使って行った。探針調整については、W探針をアルゴンスパッタリングすることで、電気伝導性があり先端径の小さい良好な探針が得られることが分かった。また、様々なAFM測定条件を検討した結果、フィードバックを用いずに高さ一定で探針をスキャンさせる「Constant Height Mode」が、表面構造を安定して測定するために最も有効であることが分かった。この測定モードでGaN表面の測定を行った結果、29年度STMで観察された代表的な欠陥(もしくは不純物)の原子分解能AFM観察に成功した。得られたAFM像は、STM像と大きく異なるコントラストを有しており、表面原子配列を反映した像が得られていると考えられる。今後は、計算なども含めて検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の大きな目的の一つはGaN中に存在する欠陥や転位を原子スケールで評価するための技術を開発し、欠陥の作る電子準位や欠陥周辺のポテンシャル分布の評価を試みることである。これまでに、走査型トンネル顕微鏡(STM)と原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、欠陥の原子分解能観察に成功した。当初、原子分解能AFM観察の習得にもう少し時間がかかると予想していたが、今年度中に達成できた意義は大きい。AFM像は原子スケールの欠陥構造を決定する上で重要な情報を提供するため、今後、欠陥周辺で電子状態やポテンシャル分布計測結果を考察する際にも非常に重要となる。 以上の理由から、研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、GaN表面の欠陥を走査型トンネル顕微鏡(STM)および原子間力顕微鏡(AFM)で観察することに成功した。今後は、得られた結果を考察し、欠陥構造の特定を試みる。また、これまでに観察された欠陥構造周辺において走査型トンネル分光(STS)やケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)計測を行うことで、欠陥の作る電子状態やポテンシャル分布の計測を行う。得られた結果から、これらの欠陥がデバイス性能に与える影響について考察を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の見込みより原子間力顕微鏡用探針の最適化がスムーズに進んだ。そのため、消耗品費として計上していたタングステン探針材料の費用が少なくすみ、次年度使用額が生じた。 H31年度は最適化したタングステン探針を使用してGaNの評価を進めると共に、探針材料としてタングステン以外の材料(例えば白金イリジウム)を検討する。この費用に繰越額を充てる。
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