研究課題/領域番号 |
17K06373
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
馬 哲旺 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40282909)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 無線通信 / 5G / マイクロ波・ミリ波 / マルチバンド / 帯域通過フィルタ |
研究実績の概要 |
本年度では、引き続き多周波数共用マイクロ波帯域通過フィルタ(BPF)、すなわちマルチバンドBPFの研究開発を中心に、研究を進めてきた。 (1)新しいマイクロストリップ2モード共振器、4モード共振器、および6モード共振器を提案し、周波数を自由に制御できるデュアルバンドBPF、デュアルバンドディファレンシャルBPFとトリプルバンドディファレンシャルBPFをそれぞれ設計した。フィルタの小型化や伝送零点の生成に工夫を凝らし、設計試作したBPFは、小型で急峻な周波数選択性等の特性を実現した。 (2)高温超電導YBCO薄膜を用いて、マルチモード共振器とBPFを提案し、さらに、マルチパスによる信号干渉構造とコモンモード抑制構造を導入し、4段と8段のデュアルバンドディファレンシャルBPFを設計試作した。測定した結果、極めて低損失、高い周波数選択性、大きな減衰量と言った従来の常温金属回路で達成できない優れたフィルタ特性を実現した。 (3)誘電体基板の表面に、マイクロストリップスタブ付きデュアルモード共振器、同基板の裏面に、スロットラインスタブ付きデュアルモード共振器を利用し、2.45 GHzと3.45 GHzの信号をそれぞれ通過させるダイプレクサを設計試作し、所望の周波数特性を得た。従来のダイプレクサの設計に必要なマッチング回路が不要となり、提案回路は小形となり、設計と調整の難易度も大きく低減できた。 (4)2つの周波数で、1つの回路を用いて、電力分配と周波数選択特性を同時に実現できる小型のデュアルバンドフィルタリング電力分配器を設計試作し、広い周波数範囲に渡る2つの中心周波数近傍の通過域内で、良好な電力分配特性を実現した。 (5)新しい広帯域BPFおよび広帯域帯域阻止フィルタ(BSF)を提案、設計、試作し、従来の同種類のフィルタと比べ、回路構造の小型化および周波数特性の顕著な改善が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ当初計画の通りに研究が進められ、多くの研究成果を収めることができた。 (1)複数の新しいマルチモード共振器を提案、解析し、マルチバンドBPFの設計に適する複数の共振モードを選択できた。 (2)新しいマルチモード共振器を利用し、複数のデュアルバンドBPFとトリプルバンドBPFを設計、試作した。フィルタの中心周波数と通過域幅の両方が自由に設計できるようになるために、新しい入出力構造と共振器間結合構造を提案した。また、フィルタの特性を改善するために、フィルタの多段化設計および複数の伝送零点が発生する設計を行い、優れたフィルタ特性を実現した。 (3)その他、新しい小型ダイプレクサ、デュアルバンドフィルタリング電力分配器、広帯域BPFおよび広帯域帯域阻止フィルタ(BSF)を提案、設計、試作し、いずれも所望の回路特性が得られた。 (4)研究成果は好評され、査読付き学術誌論文7編、国際会議論文4編、および国内学会論文8編の発表ができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新しいマルチモード共振器を提案、解析し、マルチバンドBPFを設計する 次年度も引き続き、新しいマイクロストリップ小型マルチモード共振器を提案し、伝送線路理論を用いて回路解析を行い、共振器に発生する各共振モードを詳細に調べ、その中から、マルチバンドBPFの設計に適する複数の共振モードを選択する。 提案したマルチモード共振器を用いて、設計自由度の高い、つまりマルチバンドの中心周波数と通過域幅の両方が自由に設計できるようなマルチバンドBPFを提案し、その設計を行う。デュアルバンドBPFとトリプルバンドBPFの両方を設計目標とする。複数の伝送零点が得られるBPFの構造提案と設計に力を入れ、フィルタの特性改善と小型化を同時に実現させる。
(2)マルチバンドBPFの試作と測定評価を行う 設計した各マルチバンドBPFを試作し、その周波数特性を測定評価する。所望の特性が十分に得られなかった場合、フィルタの設計理論による理想特性をもとに、回路シミュレータを使用し、最適化計算を行い、等価回路上の各パラメータの設計誤差を診断する。回路パラメータの誤差から、対応するフィルタの設計または製作の寸法誤差を抽出し、寸法に対する調整を行う。必要に応じて、フィルタの構造を修正し、再設計を行う。最後に電磁界シミュレータより、調整後のフィルタの特性を再算出し、試作と測定を行い、設計仕様と比較する。このような設計-測定評価-診断-調整(再設計)のプロセスを数回繰り返し、最終的に設計目標を満たすマルチバンドBPFを実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:(1)研究遂行上使用する回路シミュレータのライセンスアップグレード料金は、会社のアカデミック値引きより、当初計画と比べかなり安くなった。(2) 回路の設計は高精度で完成され、試作と測定の回数が計画より減り、一部の回路基板の購入と遮蔽パッケージの製作が不要となった。
使用計画:当初使用計画のほかに、今後研究成果発表件数の増加に伴う論文掲載料金の増加および学生研究補助謝金の増加が想定されている。前年度の余剰金と次年度の予算と合わせ、それらに対処する。
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