研究課題/領域番号 |
17K06377
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
山田 靖幸 小山工業高等専門学校, 電気電子創造工学科, 講師 (60431467)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | BSCCO / 固有ジョセフソン接合 / 溶液法 / 印刷法 / テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
エッチング処理が不要なプレーナー型固有ジョセフソン発振素子の省プロセス作製法を開発する.これは,本申請者が独自に開発した有機金属分解法によるBSCCO薄膜の配向制御技術に,印刷法を応用した原料溶液の塗布方法を組み合わせ,非c軸配向膜を作製することで初めて可能となる.プレーナー型素子を作製するためには基板に平行な電流路を形成できればよいため,非c軸配向膜は次のいずれかであればよいと考えられる.(A)c軸が傾斜し,かつc軸が双晶構造を形成していない膜.(B)c軸が基板に平行となるa軸配向膜等. 当該年度はNdGaO3基板を用いたBSCCO薄膜の作製と評価を行った.BSCCOの一種であるBi2212はa=5.414Å,b=5.418Å,c=30.6~30.9Å,NdGaO3はa=5.427Å,b=5.497Å,c=7.707Åという格子定数を持つ斜方晶である.各軸長を比較すると,Bi2212のa軸(b軸)長はNdGaO3のa軸長とほぼ等しく,Bi2212のc軸長はNdGaO3のc軸長の4倍とほぼ等しい.これらの格子定数に着目し,NdGaO3(100)基板を用いて薄膜作製を試みた結果,上記(B)のc軸が基板に対して平行なBi2212の結晶を成長させることに成功した.また,この薄膜の抵抗温度特性は半導体的なふるまいをすることも確認した.したがって,溶液のパターニング塗布による固有ジョセフソン接合素子作製の見通しが立った.加えて,比較のため他の溶液法により作製したものも同様の結果となり,基板との格子整合を考慮すればよいことを確認した.これらの成果の一部は平成29年12月に東京で行われた30th International Symposium on Superconductivityにて発表した. 上記に並行し,LabVIEWを用いた液体窒素による簡易抵抗温度特性計測システムの構築を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下の2つの理由により,やや遅れているとした. (1)原料溶液パターン塗布手法の検討に着手できなかった 平成28年度末までに,SrTiO3基板を用いてc軸が基板の法線方向から45度程度傾斜し,かつc軸双晶構造がないBSCCO薄膜の作製に成功したことを走査型電子顕微鏡により確認した.しかし,X線回折の極点測定の結果,薄膜全体でc軸の傾きに数度程度のばらつきがあることが判明した.また,BSCCO薄膜の超伝導転移温度におけるc軸方向とab面方向の抵抗率の比の平方根で表される異方性定数γを評価したところ,γ~10となった.所望の固有ジョセフソン接合特性が得られるBSCCO薄膜であれば,γは100程度以上になるはずであるが,この原因の一つとして,c軸方向のばらつきが大きいため粒界において超伝導層間が繋がっている可能性が考えられる.このような薄膜では,パターニングしても所望の固有ジョセフソン接合特性が得られない可能性が高い.c軸が基板に平行となる結晶が成長すればこのようなc軸方向のばらつきが回避できるのではないかと考えられるが,SrTiO3基板上ではそのような結晶は成長しなかった.そこで,BSCCOとの間の格子定数のミスフィットがより小さいNdGaO3基板を用いた薄膜作製を試みることにした. (2)小山高専に現有のクライオスタットが故障していた 本申請者は平成28年度まで高専―技科大間の人事交流制度により長岡技大に出向しており,平成29年度に小山高専に帰任した.当初の計画では小山高専に現有のクライオスタットにテラヘルツ放射特性の評価を行うためのシステム構築を行う予定であったが,帰任の際に動作確認を行ったところ,クライオスタットが故障していた.このクライオスタットは20K程度まで冷却できるものであったが,計画を変更し,液体窒素を用いた簡易計測システムを構築することとした.
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,溶液のパターニング塗布による固有ジョセフソン接合素子作製の見通しが立ったため,平成30年度は,まず,凸版印刷法の原理を応用した原料溶液塗布を検討する.原料溶液のパターン塗布後に熱処理を行い,その試料について走査型電子顕微鏡による表面観察や抵抗温度特性の測定などを行い,これらのデータを総合して,パターン塗布した場合に所望のBSCCO薄膜が得られるかどうかの評価,およびどの程度の精度でサイズ制御できるか等の評価を行う.その際,適宜長岡技大の施設も利用し,液体窒素温度以下の特性評価等も行う予定である. 上記の方法の進捗状況に応じて,原料溶液のパターン塗布方法としてインクジェット法も検討する.そのために,研究開発用のインクジェットプリンターを購入し,原料溶液のパターン塗布用の印刷システムの構築および素子の作製・評価を行う. 原料塗布方法の検討に並行して,当該年度に構築したシステムにテラヘルツ放射特性の評価を行うためのシステムを追加する.できるだけ簡易なシステムにするために,テラヘルツ検出素子として,高温超伝導体YBCO粒界ジョセフソン素子を用いる.テラヘルツ波照射時に電流電圧特性に出現するシャピロステップの観測により検出を行う.当初はテラヘルツ検出素子の作製も行う予定であったが,進捗状況に鑑み,購入することにした. これらの進捗状況に応じて,印刷法を用いて作製したプレーナー型固有ジョセフソン発振素子の高出力化について検討する.さらに,固有ジョセフソン発振素子自体の接合数に応じた多様なモードとメタマテリアル的性質との組み合わせによる新たな機能の発現の可能性を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のように,クライオスタット故障等により一部計画を見直したため,薄膜作製用基板やテラヘルツ検出素子の追加購入の必要性,およびテラヘルツ波検出システム構築の遅れが発生した.当該年度の残額分は,YBCO粒界ジョセフソン接合の購入に充てる.
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備考 |
査読付き原著論文 Y. Yamada, T. Kato, T. Ishibashi, T. Okamoto, and N. Mori, AIP Advances 8, 015101 (2018); https://doi.org/10.1063/1.5009330 平成28年度分の研究成果であり,「現在までの進捗状況」に記載した内容に関する論文である.
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