研究課題/領域番号 |
17K06386
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
鎌倉 良成 大阪工業大学, 情報科学部, 特任教授 (70294022)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フォトダイオード / InAs/GaSbタイプII超格子 / 赤外線検出素子 / ドリフト拡散シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究後期の目標として掲げたSi以外の材料、とくに赤外領域を対象とした化合物半導体の特性予測解析を行った。着目した系は、InAs/GaSbタイプII超格子である。中遠赤外域の光検出素子の特性理解と設計に資するシミュレーションモデルの構築を目指した結果、以下の知見が得られた。 (1) k.p摂動法に基づくバンド計算から抽出したパラメータをドリフト-拡散型デバイスシミュレータに取り入れることで、様々な積層周期あるいは積層比を有する超格子を用いた赤外線検出素子の特性を調べた。その結果、たとえ同一のカットオフ波長を有する場合でも超格子の積層比により暗電流特性が異なること、特に低バイアス条件下ではInAs層の比率の高い超格子ほど暗電流を抑制できる傾向があり、その原因が真性キャリア密度の違いにあることを明らかにした。さらに、受光層のドーピング濃度が高い素子に大きな逆バイアスを加えた場合には、逆にGaSb層の比率の高い超格子ほど暗電流を低減できる可能性があることを指摘し、キャリア有効質量が重いことがトンネリングに起因するリーク電流抑制に繋がることを示した。 (2) (1)の議論を発展させ、より系統的にInAs/GaSbタイプII超格子の諸特性を考察した。k.p摂動法に基づくバンド計算に基づき、赤外線検出素子の性能に関わる各種パラメータの変化をInAs層とGaSb層の厚さの関数として調べた結果、暗電流性能に対しては、短周期の超格子、とりわけGaSb層の薄い構造が有利であるとの考えを示した。これは、Shockley Read Hall機構に基づくリーク電流が、キャリア有効質量の軽い、すなわち小さい真性キャリア密度を有する場合ほど抑制されるためであると考えられる。また逆に高電界下においてこの性質はトンネル電流を増大させる懸念要因となり得ることも指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の後期目標の1つに掲げてきた赤外線検出素子のシミュレーションフレームワーク構築に特に注力し、完成させることができた。これまでに基礎的な特性分析を行うことができたので、今後はそれを応用し、具体的な素子性能向上に関する工学的な議論に軸足を移す必要がある。一方、粒子法を用いたシミュレーションについては、GPGPUを用いた高速化プログラムのプロトタイプが既に完成した。今後それを応用した大規模なシミュレーションを実施し、並列計算による効果を検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度として、これまで本研究を通じて構築した基礎的なシミュレーションフレームワークや知見等を活用し、工学的な素子設計への応用解析を推進する。また、これまで問題点として浮上してきた粒子シミュレーション方式の計算時間の問題を解決すべく、GPGPUを活用したシミュレーション体系を完成させる。特に注力する具体的項目として以下を計画する。 (1) InAs/GaSbタイプII超格子を用いた赤外線検出素子の内部に障壁層を設けることで、受光性能を維持しつつ、暗電流を抑制する方法について検討を進める。関連するメカニズムの明確化とともに、それを踏まえた素子設計指針の策定を目指す。具体的構造としてこれまで提案されているpBnおよびnBn構造をベースとしつつ、より効果的な新構造の提案にもつなげたい。 (2) アバランシェフォトダイオードのシミュレーションを行うため、GPGPUによる並列計算を行い、その効果を評価する。さらに、将来的な高速化検討のための布石として、FPGAを活用した数値計算の可能性についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に所属研究機関が変更となり研究環境の再構築に時間を要し、研究の見直しが必要となった。また、研究実施の過程で開発した並列化モンテカルロ法を用いると、より精緻なデータが得られると期待され、2020年度に学会発表を検討している。そのための学会参加費、論文投稿料や、追加データ取得に必要な関連文献、計算機、ソフトウエアの購入に予算を使用する計画である。
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