研究実績の概要 |
有機エレクトロニクスの基板材料のプラスチックに着目し,これらの光脱離現象を解明する.加えて,得られる知見を基に有機エレクトロニクス技術に寄与する新しい光物質プロセスの開発を目的としている.平成30年度では,アクリル樹脂(PMMA)の光脱離現象の詳細について調査した. 真空紫外光照射により,M/z = 28(CO), 29(CHO), 30(C2H6)に波長依存性のある光脱離が見られた.質量数M/z = 28(CO), 29(CHO), 30(C2H6)の質量スペクトルにおいて光脱離が観測され,いずれも170 nm付近にピークが検出された.このことから,アクリル樹脂は真空紫外域の中でも,170 nmに最も強い吸収を示すことがわかった.また,M/z = 28(CO), 29(CHO)においては,170 nm付近だけでなく,130 nmや200 nm付近にも小ピークが見られた.これらのピークの波長帯付近には,反結合性軌道であるσ*軌道の励起準位が存在することが示唆される. 光脱離プロセスに着目すると,真空紫外光照射により光脱離した脱離種が,そのままの状態で,四重極質量分析装置(QMS)に検出されるような1次的なプロセスだけでなく,光脱離した後,試料室内の残留物質もしくは他の脱離種と反応してQMSに検出されるような2次的なプロセスも起こることが確認できた.C-C結合及びC-O結合にのみ結合の切断が生じていたことから,光脱離現象は,PMMA構造内の結合のエネルギーが低い結合間に真空紫外光が優先的に作用して,誘起していることが示唆された.また,結合の切断は側鎖上の結合において生じたものであると考えられる.しかしC-C結合は,主鎖上にも存在するため主鎖のC-C結合が切断された可能性も考えられるが今後詳細を調べる必要がある.主鎖と側鎖とでは,分子構造上光脱離のしやすさに違いが生まれることが考えられる.
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