研究課題/領域番号 |
17K06397
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
植松 真司 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任教授 (60393758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シリコン / 不純物 / 拡散 / ホウ素 / フッ素 / イオン注入 / 同位体 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
フッ素とホウ素の共注入に用いる安定同位体シリコン(28Si)と天然シリコンによるシリコン同位体周期構造試料を用意した。天然シリコンには3.1%の30Siが含まれており、一方、28Si中の30Siは0.1%以下であるので、30Siをマーカーとして観測することによってシリコンの動きを調べることができる。この試料をゲルマニウム注入でプリアモルファス化した後に、フッ素、続いてホウ素をイオン注入した。また、参照用として、プリアモルファス化後ホウ素のみイオン注入した試料も用意した。イオン注入した試料をアニールし、30Si、フッ素、ホウ素の拡散プロファイルをSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて評価した。 その結果、フッ素を共注入した場合には、ホウ素注入のみの場合よりもホウ素の拡散が大幅に抑制されていることが確認された。一方、シリコンの拡散はフッ素注入の有無でBほどには大きな違いが見られなかった。ホウ素拡散はシリコン格子間原子を介して起こるのに対して、シリコン拡散はシリコン格子間原子と空孔の両方を介して起こることから、フッ素共注入によるホウ素拡散抑制は、フッ素・空孔クラスターからの空孔放出によりシリコン格子間原子濃度が減少するためであると結論できた。さらに、共注入試料のアニール後のフッ素とホウ素のそれぞれのピーク濃度が、片方のみ注入の場合よりも高いことが分かった。このことから、ホウ素拡散抑制には前述のシリコン点欠陥を介した機構に加えて、フッ素とホウ素間の直接的相互作用も寄与していると推測される。 次に、植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いて、フッ素とホウ素拡散プロファイルを解析した。アニール初期にフッ素・空孔クラスターが生成し、その後のアニールでこのクラスターが解離する際に空孔が放出させるとするモデルに基づくシミュレーションを行い、実測のプロファイルを再現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回シリコン同位体を用いることによって、従来独立して言われてきたフッ素・空孔クラスターからの空孔放出とフッ素とホウ素間の直接的相互作用の両方がホウ素拡散抑制に寄与することを明らかにすることができた。また、植松が独自に確立した拡散シミュレーションを用いて、同位体シリコン、フッ素、および、ホウ素拡散プロファイルを解析し、アニール初期にフッ素注入誘起欠陥によってフッ素・空孔クラスターが生成し、その後のアニールでこのクラスターが解離する際に空孔が放出させるというモデルを構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
共注入を行うフッ素やホウ素のドーズ量、および、アニール温度や時間を変化させた拡散実験を行い、より広い実験条件からのデータを用いることで、前年度に立てたアニール初期にフッ素注入誘起欠陥によってフッ素・空孔クラスターが生成し、その後のアニールでこのクラスターが解離する際に空孔が放出されるというモデルをより確実なものとする。広い実験条件からのデータにより、シミュレーションに必要なパラメータ値の精密化を図ることもできる。特に、不純物・点欠陥クラスターで一般的によく観測されるオストワルト成長に着目する。オストワルト成長は、アニール時間が経過するにつれて、サイズの小さいクラスターが消滅して大きなクラスターが成長する現象である。フッ素・空孔クラスターにおいても、短時間アニールでは解離しやすいサイズの小さいクラスターが支配的であるが、次第にサイズの大きな解離しにくいクラスターに変化していくと推測される。アニール時間を変化させた拡散実験からフッ素・空孔クラスターのオストワルト成長を観測し、そのモデルを確立する。 これらの結果から得たフッ素共注入の拡散モデルを植松が独自に確立した拡散シミュレーションに組み込み、実験で得られた拡散プロファイルのシミュレーションを行う。市販のソフトを用いるのとは異なり、新たにモデルを組み込むことが自由にできるので、フッ素共注入のようにモデルが未だ確立していない拡散のシミュレーションを行うことができる。また、実験結果と構築した拡散モデル・シミュレーションを取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
外部へのSIMS分析依頼1回に必要な額以下となった分が次年度研究費となった。次年度の分析予算と合わせて使用する予定である。
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備考 |
研究内容又は研究成果に関するwebページはない。
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