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2018 年度 実施状況報告書

フッ素共注入によるシリコン中の過渡的増速拡散抑制

研究課題

研究課題/領域番号 17K06397
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

植松 真司  慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任教授 (60393758)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードシリコン / 不純物 / 拡散 / ホウ素 / フッ素 / イオン注入 / 同位体 / シミュレーション
研究実績の概要

プリアモルファス化を行ったシリコン同位体試料に対して、フッ素とホウ素をイオン共注入し、前年度よりもさらにアニール温度や時間を変化させた拡散実験を行い、より広い実験条件からのデータを得た。その結果、アニール初期にフッ素注入誘起欠陥によってフッ素・空孔クラスターが生成し、その後のアニールでこのクラスターが解離する際に空孔が放出されるというモデルを確実なものとした。また、共注入試料のアニール後のフッ素とホウ素のそれぞれのピーク濃度が、片方のみ注入の場合よりも高いことから、ホウ素拡散抑制には空孔放出に加えて、フッ素とホウ素間の直接的相互作用も寄与しており、その相互作用にホウ素およびフッ素濃度依存性があることを明らかにした。
さらに、時間依存性の実験を行ったことから、フッ素・空孔クラスターの解離がアニール初期では速く、その後解離が遅くなることが分かった。これは、不純物・点欠陥クラスターで一般的によく観測されるオストワルト成長のためと推測した。オストワルト成長は、アニール時間が経過するにつれて、サイズの小さいクラスターが消滅して大きなクラスターが成長する現象である。フッ素・空孔クラスターにおいても、短時間アニールでは解離しやすいサイズの小さいクラスターが支配的であるが、次第にサイズの大きな解離しにくいクラスターに変化していくと考えられる。
次に、前年度に構築したフッ素とホウ素の拡散シミュレーションを用いて、拡散プロファイルを解析した。大きさの異なる2種類のフッ素・空孔クラスターF3VとF6V2を考慮することで、濃度減少に時間依存のある実測のフッ素プロファイルを再現することができた。また、そのフッ素・空孔クラスター濃度に基づいて、ホウ素拡散係数の抑制をモデルに取り込むことで、ホウ素拡散プロファイルの時間依存性も再現することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

前年度シリコン同位体を用いた拡散実験によって、従来独立して考えられてきたフッ素・空孔クラスターからの空孔放出とフッ素・ホウ素間の直接的相互作用の両方がホウ素拡散抑制に寄与していることを明らかにした。また、今回植松が独自に構築した拡散シミュレーションを用いて、同位体シリコン、フッ素、および、ホウ素拡散プロファイルを解析し、アニール初期にフッ素注入誘起欠陥によってフッ素・空孔クラスターが生成し、その後のアニールでこのクラスターが解離する際に空孔が放出されるというモデルを構築した。
今年度はより広いアニール温度と時間を用いた拡散実験を行うことで、フッ素・空孔クラスターにおいて、アニール時間を経るにしたがって、解離しやすいサイズの小さいクラスターから次第にサイズの大きな解離しにくいクラスターに変化していくオストワルト成長が起こっていることを明らかにするに至った。
さらに、構成要素であるフッ素と空孔の数が異なる2種のクラスターを考え、その成長の時間推移をこれまでの拡散シミュレーションモデルに取り込むことで、フッ素・空孔クラスターの解離がアニール初期では速く、その後解離が遅くなるというフッ素濃度の時間依存の実験データを再現することに成功した。また、このフッ素濃度の時間変化に応じてホウ素拡散抑制にもアニール時間依存があることを明らかにし、アニール温度と時間の変化に応じたホウ素拡散シミュレーションが可能となった。

今後の研究の推進方策

プリアモルファス化を行ったシリコン同位体試料について、共注入を行うフッ素やホウ素のドーズ量を変化させた拡散実験を行い、より広い実験条件からのデータを用いることで、これまで構築してきたフッ素・空孔クラスターからの空孔放出、ならびに、フッ素とホウ素間の直接的相互作用の両方がホウ素拡散抑制に寄与しているとするモデルをより確実なものとする。また、フッ素・空孔クラスターのオストワルト成長についてもモデルの厳密化を図る。広い実験条件からのデータにより、シミュレーションに必要なパラメータ値の精密化を進めることもできる。
また、これまでプリアモルファス化領域について、アニール後は転位のないシリコン結晶に戻ると考えてきた。しかし、これに基づくシミュレーションでは、800℃といった低い温度での短い時間のアニールほど予測されるホウ素拡散が実測よりも大きくなる傾向になることが分かってきた。再結晶化においてシリコン中に転位が発生することが知られており、この転位がホウ素拡散を引き起こすシリコン格子間原子を吸収するために、ホウ素拡散が減速されていると推測される。この転位発生を透過電子顕微鏡を用いて観察し、ホウ素拡散の減速と連動して変化していることを確かめる実験を行う。
そして、この新たに得られる転位の情報を植松が独自に構築したきたフッ素・ホウ素共注入拡散シミュレーションに組み込み、拡散プロファイルの統一的なシミュレーションができるようにする。市販のソフトを用いるのとは異なり、新たにモデルを組み込むことが自由にできるので、フッ素・ホウ素共注入のようにモデルが未だ確立していない拡散のシミュレーションを行うことができる。また、実験結果と構築した拡散モデル・シミュレーションを取りまとめ、Japanese Journal of Applied Physicsへの論文投稿、ならびに、秋季応用物理学会での講演における成果発表を行う。

次年度使用額が生じた理由

外部への分析依頼1回に必要な額以下となった分が次年度研究費となった。次年度の分析予算と合わせて使用する予定である。

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公開日: 2019-12-27  

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