研究課題/領域番号 |
17K06401
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大貫 進一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (80386002)
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研究分担者 |
山口 隆志 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第三部生活技術開発セクター, 副主任研究員 (30560130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複合物理解析 / 電磁界解析 / 有限差分法 / 磁化のダイナミクス / スピン波 / 時間応答解析 / マックスウェル方程式 / LLG方程式 |
研究実績の概要 |
平成30年度における研究実績の概要は、以下の通りである。
1)広帯域複合物理計算法の開発:平成29年度に本研究費で購入したハイパフォーマンスコンピュータ用に開発コードを改良し、より大規模な問題に対する複合物理解析を実現した。また、電磁界解析用及び熱解析用のソルバに対しては、複素周波数領域の有限差分法と数値逆ラプラス変換法を併用する、高効率な並列計算法を新たに開発した。新規開発法は、使用するコア数にほぼ比例した計算の高速化が可能となる手法である。コア数を変化させた検証実験において従来法よりも100倍程度の高速化を確認した。併せて本アルゴリズムの特許申請を行った。 2)スピン波励起及び伝搬制御に関する研究:ハイパフォーマンスコンピュータ用に改良した複合物理計算法を用いて、磁化の過渡的な変化が外場である電磁界に及ぼす作用の影響を、平成29年度に引き続き数値シミュレーションにより検証を行った。磁性膜中の磁化の過渡的な変化と電磁界との相互作用が、磁性膜外部の電磁界から磁化の過渡的な影響が検出できることを示した。また、電磁界の時間応答波形をフーリエ変換することで、磁性体内のスピン波成分の分離を可能とし、磁性膜内を伝搬する支配的なスピン波のモード検出した。 3)磁性体内における磁化の初期分布を変化させることで、磁性薄膜中には磁化間の相互作用により支配的なモードに対応した定在波が生じることを検証した。また、磁性薄膜外部の観測点における電磁界の時間応答波形を解析し、電磁波に含まる周波数成分の中から、磁性体内のスピン波成分の分離に成功した。併せて、高強度な電磁パルス入射に対して,磁性体内に非線形性が発現することを、磁化及び電磁波の時間応答波形から確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発した複合物理計算法を平成29年度に購入したハイパフォーマンスコンピュータ用に改良し、より大規模な問題へ適用した。また、電磁界解析および熱解析に関しては、複素周波数領域における有限差分法と数値逆ラプラス変換法を併用する、高効率な並列計算を新たに開発した。新規開発法は、従来法よりも使用するコア数の数に比例して高速化が可能であること、検証実験として行った100コアの計算に関して、従来法よりも約100倍計算速度が早くなることを確認した。開発手法の有用性を示し、特許申請も併せて行った。具体的な複合物理解析においては、昨年度に引き続き磁性膜中の磁化のダイナミクスが外場である電磁界に与える相互作用の解析を行った。膜外部における電磁界成分の中に、磁性膜中のスピン波成分の存在を明らかにし、その検出方法も併せて確立した。また、電磁界と磁性の空間セルサイズを段階的に変化させるマルチスケールモデリング法を開発にも着手し、計算精度を保ちつつ、従来のモデリングに比べ数十倍の計算の高速化を実現できるプロトタイプを開発した。これにより、実問題であるスピン波デバイス設計への応用を可能とした。以上の研究成果より、平成30年度において本研究は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実施した研究課題のより詳細な検証を行い、得られた成果を元に、実問題であるスピン波デバイスのシミュレーション設計を実施する。今後の研究の推進方策は以下の通りである。 1)広帯域複合物理解析:今年度ハイパフォーマンスコンピュータ用に改良した電磁波および磁化のダイナミクスに熱の効果を加えた3次元物性ソルバーを用いて、磁性体内のスピン波伝搬、電磁界及び熱との相互作用、外部の電磁場に含まれるスピン波成分のより高度な検出法の確立を試みる。また改良コードを用いて、実問題に対する、より大規模かつ複雑な問題に挑戦する。併せて、研究代表者が特許申請を行った、複素周波数領域における有限差分法による複合物理解析への適用を試みる。クラスタによる高効率な分散処理を実現し、今年度まで利用している数値解析モデルに対して、更に数十倍程度の高速化を試みる。 2)スピン波励起及び伝搬制御に関する研究:今年度に実施した複合物理計算の結果を元に、磁性体中に励起されたスピン波と熱、磁性体外部の電磁波との相互作用の検出を試みる。磁性体に入射する電磁パルスの最適設計を行うことで、スピン波の伝搬制御法を確立する。また磁性膜内における磁化のより詳細なモデル化を実現し、交換相互作用を正確に表現する。電磁界との相互作用に対して計算精度を保ったまま、数十倍程度高速な計算を実現できるマルチスケールモデリングも併せて確立する。 3)スピン波デバイスのシミュレーション設計:連携研究者が行っているスピン波励起の実験との比較検証を試み、シミュレーション結果を実験系にフィードバックする。最適設計した電磁パルスを外部から磁性ガーネットなどに入射し、スピン波励起及び伝搬の制御、誘起されたスピン波の振幅及び位相制御を利用するデバイスを設計する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に申請した旅費に一部変更が生じ、22万6千円の残額が生じた。これらは平成31年度に開催される国際会議(URSI Commission B, International Symposium on Electromagnetic Theory (EMTS 2019))で依頼された関連研究テーマでの招待講演の渡航費としての使用を計画している。
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