研究課題/領域番号 |
17K06410
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
古澤 健太郎 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 主任研究員 (40392104)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光マイクロリング共振器 / テラヘルツ / 窒化シリコン |
研究実績の概要 |
本研究は、高Q値導波路型光マイクロリング共振器を活用した新しいタイプのテラヘルツ波光源を実現し、その周波数安定性を評価することを目的としている。本年度は、窒化シリコン系材料などを用いて導波路型マイクロリング共振器を作製し、それを参照共振器として2台の半導体レーザ光源を同時に波長安定化すること、及びその光ビート信号からテラヘルツ波を発生し評価することを目指した。 触媒化学気相堆積(cat-CVD)法による窒化シリコン薄膜を用いた導波路型マイクロリング共振器を作製し、その光学評価を行った。薄膜堆積条件やドライエッチング加工条件を最適化することによって、光通信波長帯Lバンドにおいて結合効率> 90 %、Q値> 10^5を同時に達成し、高Q値マイクロリング共振器を高効率に光励起を行う目処がついた。これは非線形光学効果によって発生したビート信号を利用してテラヘルツ波を発生する上で重要なマイルストーンになると考えている。しかし、cat-CVD法による窒化シリコン薄膜中に存在するNH基に由来する振動吸収により、Cバンドにおいて高Q値( > 10^5)を実現することは現状では困難と見られ、LバンドでもQ値の律速要因になっていると考えられることから、薄膜の高温アニールによる水素分子の除去や、(より高温で堆積するため膜中の残留水素濃度が低いと期待される)熱CVD法による窒化シリコン薄膜を利用する検討も開始している。 一方、テラヘルツ波発生を目的として、波長可変外部共振器半導体レーザの波長をマイクロリング共振器の共振波長に同調することを試み、安定してロックできることも確認した。テラヘルツ波を発生するために必要な二波長で同時にロックする素地が整ったといえる。しかし、その相対的周波数安定度の評価には光周波数での基準が必要であるため、その整備も併せて行っていくことを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度上半期は、マイクロリング共振器の加工おいて、プロセスの再現性が得られず、Q値向上のための条件最適化に時間を要したため、サンプル作製の負荷が当初の見込みより大きくなったことが、進捗の遅れの主な要因になっている。特に、非線形光学効果を利用した光周波数コムを発生するためには、深堀ドライエッチング加工(> 600 nm)を行いつつ、できるだけ高いQ値(~10^6)を実現することが重要であることが計算から予測されている。しかし、光導波路側壁の表面粗さはあるエッチング深さを境に急激に悪化し、散乱損失が増大することによってQ値が減少してしまうことがわかっており、その加工特性はドライエッチング装置の稼働状態にも強く依存することがわかった。これはフッ素系ドライエッチングにおいて異方性エッチングを可能にしているフッ素化合物(保護膜)の堆積とエッチングのバランスが、長時間エッチングの結果、崩れてしまうことに起因すると考えている。 また、半導体レーザ光源とマイクロリング共振器のロックすることは実現できたものの、その安定性の定量的評価はできていない。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロリング共振器の作製に関しては、ドライエッチング加工装置を良好な状態に保ち装置稼働率を向上する対策も行ったため、加工条件の最適化において再現性が向上し、今後はサンプル作製の負荷は徐々に低減していくことが期待される。継続的に加工条件やその他プロセス条件の最適化を行い、Q値のさらなる改善を試みる。 測定実験では、二波長同時ロックによるテラヘルツ波を発生させ、電気光学(EO)検出など、テラヘルツ波の評価系を構築すると共に、絶対光周波数が安定な参照光源を整備し、それに対してロックした光源の周波数比較を行うことで、周波数安定度の律速要因を同定できるようにしていく予定である。また、安定して非線形光学効果による光ビート信号発生を目的として、強励起下におけるマイクロリング共振器の光学応答特性も体系的に調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験進捗の遅れに付随して、未使用分が発生した。未調達の光学部品に充当する予定である。
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