研究課題/領域番号 |
17K06413
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西村 寿彦 北海道大学, 情報科学研究科, 准教授 (70301934)
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研究分担者 |
大鐘 武雄 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (10271636)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 簡易ビーム形成 / 大規模MIMO / マルチユーザMIMO / レイトレーシング / 遺伝的アルゴリズム / 圧縮センシング |
研究実績の概要 |
送信側受信側双方に複数のアンテナ素子を搭載するMultiple-Input Multiple-Output (MIMO)システムを発展させた、大規模MIMOシステムの研究が進められている。一般にこのシステムでは、アンテナ素子を水平・垂直方向に配置したFull Dimension-MIMO構成をとる。これにより3次元的なユーザ分離が可能となり、複数ユーザと基地局が同時に通信するマルチユーザMIMOシステムを実現するのに有効で、システムのスループットを飛躍的に上げることができる。但し、アンテナ素子の全てに高性能な信号処理機能を持たせる必要があり、製造コスト上の問題がある。本研究では、圧縮センシング法と呼ばれる新しい信号処理手法などを用いて、マルチユーザアクセスを低コストで実現し、第5世代以降の通信システムに供することを目的とする。 今年度は、主にFD-MIMOシステムでマルチユーザ分離を実現するためのアンテナ素子選択アルゴリズムの確立を目指した。本研究で扱うFD-MIMOシステムのモデルについて、レイトレーシングにより伝搬チャネルデータを取得する。このデータに対して、遺伝的アルゴリズムを用いて、最適なビーム形成を可能とするアンテナ素子を選択する。各アンテナは、その位置の違いによりそれぞれ異なるチャネル応答を持つため、それらのいくつかを選び出して組み合わせることで、素子数と同じだけの送受信機を装備することなく柔軟なビーム形成が可能となることを示した。また、圧縮センシングを実装することを前提に、電波の到来方向推定を例にとって、各種アルゴリズムの比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模マルチユーザMIMOにおける簡易ビーム形成を実現するために、遺伝的アルゴリズムを用いてアンテナ選択を行い、提案手法の潜在能力を追求した。最適な簡易ビーム形成を行うことのできるアンテナを選択するためには、すべてのアンテナの使用・不使用の組み合わせを試して結果を評価する必要がある。しかしながら、アンテナ素子が100素子以上もある大規模アンテナシステムにおいては、その組み合わせが爆発的に増加し、現実的な計算時間では求めることができない。その為にまず、準最適解が得られる遺伝的アルゴリズムを用いて、選択されたアンテナの傾向を調査して、直感的に選択できる方法と比較を行った。その結果、当初の予想通り、簡易ビーム形成により、ある程度の効果が得られることを示すことができた。 一方、圧縮センシングを実装するための前段階として、圧縮センシングの各種アルゴリズムを電波の到来方向推定を例にとって評価を行った。その結果、圧縮センシングは、従来の到来方向推定アルゴリズムと比較して、到来波数の事前情報が不要なこと、相関を持つ到来波でも分離可能なことを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果から、直感的なアンテナ選択による簡易ビーム形成でもある程度の効果が得られることが判ったが、送信ウエイトを用いた場合に比べると十分な特性が得られたとは必ずしも言えなかった。そこで、簡易なデジタル移相器等を用いることを前提とした、ビーム形成手法の改良を行いたい。具体的には、レイトレーシング、または、実測によって得られたチャネル情報を、複素平面内の1つの象限に集約することで、アンテナ選択をより簡便にしたうえで,ユーザ間干渉を低く抑える方法を、遺伝的アルゴリズムを用いて調査する。 さらに、圧縮センシングのアルゴリズムを実装することを前提に、実機による送受信機構成を構築して、実伝搬チャネル情報を取得する。そして、得られたチャネル情報に対して、上記のアンテナ選択手法の効果を評価していく。
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