研究課題/領域番号 |
17K06426
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
松永 真由美 東京工科大学, 工学部, 准教授 (30325360)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンテナ / 円偏波 / 偏波可変 / 小型化 / 零位相分散 / ループアンテナ |
研究実績の概要 |
本年度は、(1) 従来よりも小型に円偏波ループアンテナが設計できる原理検討、(2) 左右の旋回方向が変化する円偏波アンテナの給電方法及びインピーダンス調整方法の検討、(3)偏波を電気的にコントロールする方法について検討を行った。 (1)文献調査の結果、最も参考となる文献として、[1]クロスダイポールアンテナの円偏波発生原理を並列に接続された2本のダイポールアンテナのアドミタンスの偏角の差で設計する文献と、[2]折り返しアンテナの基本原理を参考に検討を行った。 文献[1]に基づく検討の結果、クロスループ構造は、上下方向に伸びるループ素子と左右方向に伸びるループ素子とがLCR直列共振器として動作していると説明できる事を明らかにした。また、電磁界シミュレーションによる電流分布を考察した結果、電流が時間的に変化しない周波数の存在と、その前後の周波数において電流の時間変化が正反対の方向にみられる現象を確認した。このことより、当該周波数においては零次共振状態にある事と推定された。 文献[2]に基づく検討の結果、クロスループ構造の上下に伸びるエレメントは、折り返しアンテナと等価であり、上下に伸びるエレメント上を時間的に回転する様に電流が分布するモードを、左右に伸びるエレメントを折り返しアンテナに付加することで、電流の回転方向が上下のエレメントで同じ方向とし、円偏波が放射される様にしたと、説明づけた。 (2)本アンテナは、給電部における電流の平衡度がその性能を左右することが、試作実験により分かった。そのため、給電部の平衡度やインピーダンスに左右されることなく、アンテナ性能が発揮できる給電部の設計を行った。 (3)給電部を工夫する過程において、給電部の電流をコントロールする方法を見いだした。これにより、クロスループ構造の円偏波アンテナが放射する偏波の方向を電気的にコントロールする事が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
提案しているクロスループ構造を用いた円偏波アンテナ設計においては、給電部の平衡度がその性能を左右することが分かってきた。そのため、様々なアプリケーションに対応するには、給電部の平衡度によらず安定した性能を発揮する必要性がある事がわかった。また、昨年度までに設計した小型円偏波アンテナは、インピーダンス特性が良いとは言えず、アンテナの効率を向上させるには、インピーダンスの調整が容易な給電構造が必要である事も分かった。そこで、今年度は、給電部の工夫に力をいれる事にした。これは、当初は予想できなかった事であり、研究を進めていく中で新たに発見した研究課題である。また、本年度中に、この課題を解決できる給電構造を提案できるまでに研究を進めることができた。このことより、当初の計画以上に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、多周波化や指向性制御へ挑んでいく予定にしている。 これらの応用的発展研究においては、給電部の設計が重要である。本年度中に様々な給電状況においても性能を発揮でき、インピーダンスや給電電流の平衡度をコントロールできる給電構造の提案をしたことで、今後の発展が非常に期待できる状態であると言える。 特に、多周波化においては、クロスループ構造が、従来よりも小型にアンテナが設計できる点を考慮すると、従来のアンテナサイズに適応した周波数における動作と、零次共振状態を利用した周波数における動作とを組み合わせる事による設計が見込まれる。 また、指向性制御においては、電流分布のコントロールが重要である。現在は、時間的に回転する電流分布の回転方向を給電部によりコントロールする方法を見いだしている。今後は、指向性の制御に寄与する電流分布をコントロールする方法を見いだしながら、研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、文献調査やシミュレーションに基づく研究に多くの時間を割いたことから、アンテナの試作や、試作アンテナの実測に基づく検討は少ない研究時間となった。また、昨年度試作したアンテナ等を用いた実測検討を行っていた事から、物品費の支出が当初の見込みを下回った事が主な要因である。 更に、身内に不幸が起きたことで、これらに伴う心身の疲労や時間的制約も、文献調査やシミュレーションに重きを置いた研究形態となった理由である。これは、年度当初には予測困難な問題であった事から、予定額の執行が難しい状況となった。 しかしながら、本年度、文献調査やシミュレーションに重きをおいた研究に従事することができた事で、次年度においては、これらに基づく試作や実験的検討に重きを置くことが可能となった。これに伴う物品費として使用を予定している。 未使用額と2019年度分を合わせた額は、アンテナ性能の実証実験の為の試作費用、アンテナを測定するために必要な測定ジグやケーブル、基準アンテナなどの購入費用、アンテナ測定の為の国内出張旅費、そして、成果発表の為の国際学会参加費用、海外出張旅費、及び、学術誌への投稿費用として支出予定である。
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