報告者自身が提案した新たな電力分配システム「パルス化配電ネットワーク」の基盤技術と運用方式について検討を行い,以下の成果を得た. (1) 電力パルスの双方向中継を可能とする双方向電力ルータの設計を行い,その動作を確認した.電力ルータはPowerMOSFETなどの方向性を持つ電力デバイスを用いて構成するが,複数の外部端子対ごとに一対のデバイスが背面接続する構成により,すべての端子対の双方向中継が可能となった.(2) パルス化配電ネットワーク内の各送電者が他の受電者の電力需要と送電距離に基づいて適切に送電先を決定する方式「ポテンシャル勾配法」を提案し,同方式にもとづくネットワークの動作をシミュレーションによって確認した.同方式によればネットワーク内の各ノードが常に最小限の計算負荷により自律分散的に動作するので,ネットワーク拡張性が得られる.(3) 以上の成果の実証を目的としたパルス化配電ネットワークのミニチュアモデルを作成した.同モデルは8基の双方向電力ルータ,2基の送電者,および4基の受電者からなり,ポテンシャル勾配法に基づいて稼働する.同モデルにより,実際に電力パルスを用いたネットワーク運用が可能であることを実証した.(4) ポテンシャル勾配法に基づくパルス化配電ネットワークが複数の分散型電源を均等に含む場合は,広域のネットワークが各分散型電源を中心として自律的にクラスタ化し,この結果災害などに対する高い信頼性を得ることが期待できる.この高信頼型ネットワークを「適応クラスタ型配電ネットワーク」と呼び,その稼働状況をシミュレーションによって検証した.(5) パルス化された電力伝送においては各パルス波形が持つ高周波成分が周囲の電波環境に影響する可能性がある.この問題について解析し,パルス波形を適切に設定することによりこの問題が低減することを確認した.
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