研究課題/領域番号 |
17K06442
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
高橋 浩 上智大学, 理工学部, 教授 (40500468)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 導波路 / 電磁波 |
研究実績の概要 |
初年度である本年度では、テラヘルツ波回路を構成する導波路の基本伝搬特性について検討を行った。マイクロ波の場合と同様に、金属壁を有する導波管構造を採用したが、その伝搬損失と、光源と導波路の接続部における結合効率は管の寸法に大きく左右される。定性的には大きい方が有利だが、多数の高次モードによるモード間干渉により回路の特性が劣化すると予想されるので、寸法と伝搬モードの関係を実験的に明らかにした。 ・マイクロ波で良く知られているように管の幅は波長の約0.9倍が望ましく、周波数1THz(波長が300μm)に対する標準寸法は270μmであるが、その5倍の1500μmの場合でも、最低次のTE01モードのみが伝搬することを、実験結果を解析して得た伝搬定数の周波数依存性特性より明らかにした。 ・光源の光学設計に依存するが、一般的に光源からのビーム寸法は1~数mm程度であり、管の寸法が1500μmの場合の結合効率は約-5dB程度であり、標準寸法の場合の約-10dBと比較して、高効率であり、また、伝搬損失も理論値の1dB/cmにほぼ等しい値であることを実験的に確認した。 ・応用回路の1つであるアレイ導波路回折格子(反射型)の初期検討用サンプルを試作し、特定の周波数のテラヘルツ波のみを取り出せることを実験的に確認した。H30年度に発表予定である。 以上をまとめると、単一モード条件を満たさない寸法の大きな導波路を積極的に利用して、伝搬損失が小さく、かつ、モード間干渉の影響が小さいテラヘルツ波の集積回路を作れる可能性を確認できたことが本年度の成果である。また、理論検討用の計算プログラム作成、測定系セットアップ、研究補助の学生のスキル等、次年度以降必要となる研究手段の準備も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は3項目ありそれぞれの進捗は以下の通り。 (1)パラメータの異なる導波路を作製・評価: テラヘルツ波光源のビーム寸法、NC加工機の精度、寸法と伝搬モード数の関係、評価系にセットできるサンプル形状等を考慮し、幅を変えた複数の導波路のサンプルを作製した。(3)の評価装置を用いて複数のサンプルについて評価を実施した。また、測定データから伝搬定数を得るためのアルゴリズムの検討、コンピュータプログラムの作成を行い、測定から伝搬モード解析ができる一連の研究環境準備を計画通り行った。加えて、モード間干渉の影響を先行して調べるため、3年目に予定していたアレイ導波路回折格子の簡易版の作製・評価を前倒したので、計画以上の進捗であった。 (2)製造方法に起因する損失増加等の問題点の把握と損失低減策の検討: 伝搬損失については、金属導波管における理論上の損失を計算したが、壁面加工粗さの異なるサンプルを作製して比較するところまでは至らなかった。その理由は今回利用した加工機の粗さでも理論値に近い損失値が得られたことから当面これで十分と判断し深く追求せず、(1)の検討に注力したためである。次年度以降、詳細な検討を行う予定である。 (3)導波路の評価系構築に向けた課題の把握: 研究連携者である東北大の支援を受けながら、同大が所有の評価系の操作法、測定周波数範囲や周波数精度に応じた遅延時間の設定法を習得し、評価手法を確立した。また、その際に光源からのテラヘルツ波ビームウェストのサイズの評価などを通じ、導波路とビームの結合効率や、測定精度を考察するために必要なデータを得た。 以上、(1)が計画以上、(2)がやや遅れ、(3)が計画通りであり、総合すると概ね順調であったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の当初計画では伝搬損失低減を目指し、(1)分岐部における導波路形状の最適化の計算検討、(2)クロソイド曲線の適用の設計検討、(3)サンプル作製と実験的評価と改善のためのフィードバックを行う予定である。基本的にはこの通り進めるが、H29年度の成果で記述したように一般的な加工技術で作製しても伝搬損失は理論値に近くそれほど深刻な問題ではないため、損失低減の検討をやや減らして、H31年度に予定していた具体的なテラヘルツ波回路の予備検討を前倒しすることとする。そのため、それらの試作回路に合わせた測定系の変更(具体的にはサンプル固定用の治具の作製)、評価精度向上のための測定系操作パラメータの再検討なども行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由1)伝搬損失評価用サンプルの作製と測定に注力したため、評価は研究連携者の装置を使うこととして、独自の評価系立ち上げを後ろ倒ししたため、設備備品費の支出が光学定盤だけとなった。(理由2)通常のNC加工機での試作でまずまずの損失値が得られたことから、フォトリソグラフィー型の高精度加工法によるサンプルの作製を見送った。(理由3)学会参加を見送ったため旅費の使途が、研究連携者(東北大)への出張のみとなり、当初の半額となった。H30年度では、当初計画を大きく変更することはなく、支出を見送った分をそのまま予算執行する予定である。
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