研究課題/領域番号 |
17K06446
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松嶋 敏泰 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30219430)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 有限長解析 / 最適化問題 / 情報源符号化 / ベイズ符号 |
研究実績の概要 |
本研究では,最終的に,(a)符号化レートや誤り確率の理論限界を,実用的なデータ長や実用的な誤り確率を許して数値として導出する,(b)符号化復号システム全体を大きな最適化問題として定式化し,より実用的な制約のもと(準)最適な符号と復号の組として求める,というように,理論とアルゴリズムの研究を接近させ,融合・発展させること目標としている.本年度は,昨年度に引き続き,(a)に関連した研究として以下の(a')を,(b)に関連した研究として以下の(b')の研究を行った.その結果,(a')に関しては以下の(R-1),(b')に関しては以下の(R-2)の結果を得た. (a') データ圧縮の研究である情報源符号化問題における,有限のデータ長に対する符号化レート,誤り確率等の理論限界の導出.さらに,その他分野への応用. (b') 効率的な符号化復号アルゴリズムの構築. (R-1) 有歪み情報源符号化におけるVF符号の有限符号語長におけるオーバーフロー確率のしきい値の下界をスムースマックスエントロピーという量を用いて導出した.また,ベイズ符号は,無歪み情報源符号化における代表的な符号のひとつであるが,ベイズ符号の有限符号語長の理論評価式を用いて,分類問題の誤り確率の精密な評価を行った.さらに,具体例に対して実用的なデータ長を仮定したもとで,分類誤り確率の上界と下界を数値として導出した. (R-2) 無歪み情報源符号化問題においては,区間ごとに文脈木モデルが変化する情報源というi.i.d.情報源やマルコフ情報源など従来考えられてきた情報源クラスを含むようなクラスに対して効率的にベイズ符号化を行うアルゴリズムを構築した.そのほか,従来の無歪み画像圧縮における自己回帰生成モデルに正規雑音が加わるモデルを,t-分布雑音が加わるモデルへ拡張し,それに対し準最適なベイズ符号化アルゴリズムを構築した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目的は,(a)符号化レートや誤り確率の理論限界を,実用的なデータ長や実用的な誤り確率を許して数値として導出する,(b)符号化復号システム全体を大きな最適化問題として定式化し,より実用的な制約のもと(準)最適な符号と復号の組として求める,ということである.この目的に対して,以下の結果が得られたため,おおむね順調に進展していると判断した. (1) 有歪み情報源符号化におけるVF符号の有限符号語長におけるオーバーフロー確率のしきい値の下界を導出できた.ほかにも,ベイズ符号に対する解析手法を学習理論における分類問題の分類誤り確率の評価手法に応用できた. (2) 従来より広い情報源クラスである区間ごとに文脈木モデルが変化する情報源に対して効率的にベイズ符号化を行うアルゴリズムを構築した.そのほか,従来の無歪み画像圧縮における確率モデルを拡張したモデルに対し準最適なベイズ符号化の構成を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた成果をもとに,最終的な研究目標の達成に向けて,研究をさらに発展させる.具体的には,研究課題(a)に対しては以下の(i),研究課題(b)に対しては以下の(ii)のアプローチにより研究を実施する予定である. (i)より実用に近い仮定のもと,より精密に数値的に誤り確率等が導出できる解析手法を構築する. (ii)引き続き,符号化復号システムの構成の研究を行う.同時に,本年度の成果を基に,構成した符号化復号システムに対する誤り確率,符号化レートの評価手法の研究をさらに進めていく. また,アプローチ(i)とアプローチ(ii)を近づけていき,最終的には両アプローチを融合させ相乗的な研究を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で学会が中止あるいはオンライン開催になったことによって,出張費用がかからなかったため,次年度使用額が生じた.この費用は,論文掲載費,出張費用等に充当する予定である.
|