研究課題
本研究では,(a)符号長が有限の場合など,より実用に則した条件のもとでの通信システムの性能の理論限界を導出し,(b)その理論限界を達成する符号化・復号法の組を目指している.(a)においては符号化レートや誤り確率の理論限界を,実用的な符号長や通信路で数値として導出した.実際に,可変長符号化における歪み超過確率を一定に抑えた下で正規化キュムラント母関数の非漸近的な符号語長を解析し,その達成可能性とレニーエントロピーの関係性に関する結果を得た.(b)においては,ベイズ決定理論に基づく最適な符号化確率を用いるベイズ符号を中心に,有限長データの圧縮問題に対する圧縮率の理論限界の知見をすでに得ており,これを画像の可逆圧縮問題に適用した.具体的には画像の画素値に対して確率的生成モデルを仮定し,仮定したモデルに対するベイズ符号化が圧縮の理論限界を達成することを示した.このように,(a)による実用に近い条件での理論限界は,(b)の最適化による符号・復号法の構成における直接的な目標となり,実問題において(a)と(b)の融合的・相乗的な研究へと発展させることができた.また,この画像の確率的生成モデルについて,一部のノードのみ延伸していく四分木に対して良い事前確率分布を仮定することで,一般に指数オーダーの計算量を要するベイズ符号化アルゴリズムを効率化し,最適性を失うことなく計算量を多項式オーダーまで削減することに成功した.このような木構造に関する事前分布について,事後確率計算を効率的に行うことができる事前分布の体系化を行い,これまで確率モデルからの理論的研究があまりみられなかった決定木の分野において,ベイズ決定理論から最適な予測法を導出する研究につなげることができた.
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