研究課題
本研究は、(課題1)低SN比(約0 dB)信号から地球周辺宇宙から到来する自然電磁波を検出するための雑音除去、(課題2)分裂、結合、明滅、移動する粒子群(オーロラ)動画の高速自動追跡の開発に対し、マルチメディア(音声・動画像)信号処理技術の応用により解決を図る。これにより、地上リモートセンシングから地球周辺宇宙の電磁環境を反映する波動粒子相互発生域の時間変動と空間変動の分離を目的としている。課題1に対し、平成29年度は周波数領域と時間領域における雑音低減処理についてそれぞれ検討を進めた。周波数領域では、情報理論の観点から信号と雑音区間を高精度に区分し、推定した雑音モデルを用いて、音声信号処理の分野で高い雑音除去性能で知られるスペクトルサブトラクション法の適用を図った。時間領域では、適応フィルタによる定常雑音除去について取り組んでいる。特に、初期パラメータによる雑音低減の影響について検討を行った。いずれもSN比10~20 dBの改善が得られており、良好な結果が得られている。課題2については、初期輪郭や雑音低減を目的とした前処理の改善を図り、動的輪郭モデルの一種であるレベルセット法の高速化・高精度化について検討を進めた。レベルセット法の改善より、現象に含まれる特徴的な空間変化が明らかになりつつある。また時間周波数解析により、陽子の降り込みを示す動画データに、これまで知られていなかった秒スケールの時間変動が含まれていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
課題1の雑音除去について、周波数領域、時間領域ともに定常雑音除去に進展が得られている。特に周波数領域での定常雑音除去では、自然電磁波の波形復元は難しいと予想していたが、雑音エネルギーの抑圧により信号位相が強調され、優れた波形復元も可能であることが分かった。これは、非線形最小二乗法を用いた位相推定を行った結果と同等であり、かつ位相推定の処理を必要としない分、計算コストの面で優れるという利点が得られた。課題2については、時間周波数解析により、陽子降り込み時に秒スケールというこれまでに報告のない高速な時間変動を有していることを見出し、その研究成果はプレスリリースを行った。
平成30年度は、課題1に対しパルス性の非定常雑音の検出・抑圧の改善に力点を入れて解析を進める。特に自然電磁波エネルギーの統計的性質から決まる閾値処理による手法と機械学習に基づくパルス性雑音検出について比較を予定している。課題2については、レベルセット法を用いた輪郭抽出が良好な結果を得られていることから、輪郭抽出した動オブジェクトの追跡に力点を入れて解析を進める。
信号処理の高速化のためにGPUを計上していたが、GPU性能の評価に時間を要し最適なシステムを選定するに至らず、年度中に導入できなかったため。GPU性能評価結果に基づき、GPUを導入する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Geophysical Research Letters
巻: 45 ページ: 1209~1217
10.1002/2017GL076486
https://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=3006