研究課題/領域番号 |
17K06469
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
関 篤志 創価大学, 理工学部, 教授 (70226629)
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研究分担者 |
渡辺 一弘 創価大学, 理工学部, 教授 (40240478)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光ファイバ / ナノ粒子 / 電場増強 / 蛍光増強 / 酸素センサ |
研究実績の概要 |
酸素濃度の測定は,燃料電池における発電の安定化,自動車における空燃比の制御,安全・健康な環境の維持,医療現場において必要不可欠であり,簡便・高感度な酸素センサが要望されている. 本研究は,蛍光消光を指標とした光学的酸素測定法においてナノ粒子による蛍光増強効果を利用することによる高感度な計測システムの開発を目的としている. 当該年度において,銀ナノ粒子(AgNP)およびルテニウム錯体(Ru)のガラス基板上への固定化法を検討するとともに,ガラス基板上に固定化したルテニウム錯体の蛍光スペクトルを測定することにより,蛍光強度の増幅および酸素測定の高感度化について検討した. ルテニウム錯体水溶液に銀ナノ粒子を懸濁して蛍光スペクトルを測定したところ,Ruのみの場合より蛍光強度は低下した.これはAgNPとRu錯体の距離が近すぎる場合は,電場増強による蛍光強度の増強効果より,励起されたRu錯体のエネルギーがAgNPに移動する消光効果が大きくなるためと考えられた.そこでAgNPを混合したポリイオン水溶液をガラス基板表面にキャストすることにより薄膜を形成し,この上にRu錯体を含む膜を形成して蛍光スペクトルを測定した.その結果,ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いることにより均一な薄膜を形成することが可能であり,また蛍光強度の増強も認められた.また,酸素濃度の測定における感度および分解能も2倍となった.さらに,表面にアミノ基を導入したガラス基板にAgNPを固定化し,この上にスパッタ法を用いて五酸化タンタル薄膜を形成し,この上にポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いてRu錯体を固定化した.この場合では,2倍の蛍光強度が得られた.すなわち,AgNPによる電場増強における蛍光増強において,AgNPと蛍光色素の距離が酸素濃度の測定感度に大きな影響を及ぼすことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
酸素感受性蛍光色素としてルテニウムビピリジル錯体光(Ru錯体),硝酸銀をクエン酸を用いて還元することにより銀ナノ粒子(AgNP)を調製した.ファイバを端面が平面となるよう切断した通信用マルチモード光ファイバを蛍光色素溶液に浸し,発光ダイオードからの励起光を光カプラを介して光ファイバに導入し,平面な末端近傍の蛍光色素を励起し,これからの蛍光をマルチチャンネル分光器を用いて測定した.溶液中のRu錯体の蛍光強度は窒素バブリングにより増大し,酸素バブリングにより減少するという酸素依存性を示した.この溶液にAgNPを懸濁させると蛍光強度変化は減少した.これは励起されたRu錯体のエネルギーが蛍光を発する前にAgNPに移動したため,蛍光強度が減少したと考えられすることによりAgNP薄膜を形成し,この上にポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液に溶解したRuる.そこで電場増強を利用できかつエネルギー移動が起こらない条件を検討した.ガラス基板上にポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液に懸濁したAgNPをキャスト錯体をキャストすることによりRu錯体薄膜を形成し,これに励起光を照射して発生する蛍光を測定した.この場合,蛍光強度の増大が認められた.また,ガラス基板表面にアミノ基を導入し,ここにAgNPを固定化した後にスパッタ法を用いて五酸化タンタル薄膜を形成し,この上にポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いてRu錯体を固定化した.この場合では,2倍の蛍光強度が得られた.また,酸素に対する蛍光強度変化も2倍となった.すなわち,AgNPによる電場増強における酸素測定の感度を上げることが可能であることが示された.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,光ファイバ表面に銀ナノ粒子と蛍光分子を固定化することにより微小酸素センサを作製し,その特性について検討する.端面を平坦に切断した光ファイバ表面に交互積層膜を形成し,蛍光色素溶液に浸すことにより膜中に酸素感受性蛍光色素を吸着固定化する.これをポリカチオン水溶液に浸した後に銀ナノ粒子懸濁液に浸すことによりセンサ表面に銀ナノ粒子を固定化することにより酸素センサを作製する.前年度に構築した蛍光測定システムにこの酸素センサを組み込み,光カプラを介して光源から励起光を照射し,端面で発生した蛍光を光カプラを介してマルチチャンネル分光器に導入し,蛍光スペクトルの酸素依存性について検討を行う.また,蛍光色素固定化膜と銀ナノ粒子を交互に積層した薄膜の酸素センサとしての特性を検討することにより,高感度化に必要な銀ナノ粒子の密度とセンサ感度の関係について検討する. 次に,光ファイバ先端を緩衝フッ酸に浸漬・引き上げを繰り返すことにより先端を針状化し,上で述べた方法を用いて蛍光色素と銀ナノ粒子を固定化し,蛍光スペクトルの酸素濃度依存性の検討を行う.光ファイバの形状とセンサ感度との関係についての検討を行い,さらなる高感度化の達成を試みる. 平成31年度は,発光ダイオード,フォトダイオード,光カプラ,フォトダイオードで検知した蛍光を電気信号に変換・増幅する測定用基板を内蔵する小型計測装置を作製する.これに,優れた感度を示した形状の光ファイバ表面に,感度の優れた製膜法および素材を用いて蛍光色素および銀ナノ粒子を固定化したセンサを接続することにより小型酸素計測システムを構築する.このシステムの特性を,マルチチャンネル分光器を用いて得られた結果と比較することにより,小型酸素計測システムの特性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,FCコネクタ付き光ファイバの平面な末端を用いてナノ粒子の存在する場合の酸素感受性蛍光色素からの蛍光を測定する過程で.ナノ粒子と蛍光色素の距離の制御が信号増幅に重要であることが明らかとなった.そこで,当初の目的であった光ファイバ先端を針状に加工し,これを用いた酸素センサの特性評価を行うという予定を変更し,安価なガラス基板を用いてナノ粒子と蛍光色素の距離の制御についての検討を行ったため,FCコネクタ付き光ファイバの購入数が少なくなり,次年度使用額が生じた. 平成30年度は,次年度使用額を用いて前年度に購入する予定であった数のFCコネクタ付き光ファイバを購入し,これを用いて先端を針状に加工して酸素センサを作製して酸素センサとしての特性を検討する予定である.
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