研究課題/領域番号 |
17K06469
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
関 篤志 創価大学, 理工学部, 教授 (70226629)
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研究分担者 |
渡辺 一弘 創価大学, 理工学部, 教授 (40240478)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光ファイバ / 針状加工 / 酸素センサ / 蛍光測定 / ナノ粒子 / 電場増強 / 蛍光増強 |
研究実績の概要 |
当該年度において,フッ酸を用いて石英系光ファイバの針状化条件の検討を行なうとともに,針状化した光ファイバを用いる蛍光測定を行うことにより,蛍光測定プローブとしての特性について検討した. コア径,50µm,クラッド径125µmの石英系マルチモード光ファイバを自動ステージにセットし,0.05cm/sの速さで緩衝フッ酸に浸漬・引き上げを繰り返した.先端部ほど長時間フッ酸に浸るため,より先端部ほどエッチングが進行する.これにより先端を針状に研磨することを達成した.また顕微鏡を用いる観察により,先端の浸漬・引き上げ回数が100回,200回,300回,400回と増加するにしたがって,形状は円錐台からより円錐に近くなり先端径は順に88µm,62µm,40µm,20µmと細くなった.浸漬・引き上げを500回繰り返した場合は,光学顕微鏡では観察および測長が困難な程度の細さとなった. 針状加工した先端をルテニウム錯体水溶液に浸して蛍光スペクトルを測定した.得られた蛍光強度を針状加工を行なっていない平坦な先端の,浸漬.引き上げ回数を増やし,これにより先端がより針状形になるにつれて,測定される蛍光強度はフッ酸による処理を行なっていない平面の末端を用いて測定した蛍光強度おり増大した.しかし,浸漬.引き上げ回数が500回の光ファイバにおいて得られた蛍光強度は平面末端のものより低かった. これらの結果は,先端を適切な程度に針状化した微細光ファイバを用いることにより高感度かつ広い測定範囲における酸素測定を達成できるという,当初の予定を超える性能を本計測システムは有していることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は,光ファイバ,マルチチャンネル分光器および発光ダイオードを用いて基板表面に固定した酸素感受性蛍光色素であるルテニウムビピリジル錯体(Ru錯体)の蛍光測定システムを構築した.ガラス基板表面に金ナノ粒子(AgNP)を固定化し,そこにRu錯体薄膜を形成し,この測定システムを用いて蛍光スペクトルを測定したところ,AgNPが無い場合より強い蛍光を測定することができた.さらに,AgNP上に誘電体として五酸化タンタル薄膜を形成し,この上にポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いてRu錯体を固定化した場合では,2倍の蛍光強度が得られた.2年目は,光カプラ,発光ダイオードを用いる励起用光源およびマルチチャンネル分光器を用いて針状に加工した光ファイバ先端へ励起光を導入し,末端において発生する蛍光をマルチチャンネル分光器を用いて測定するシステムを構築した.また,光ファイバ先端をフッ酸に浸漬・引き出しを繰り返すことにより先端を針状に加工するシステムを構築した. この加工システムを用いて光ファイバ先端の針状加工条件の検討を行い,これとともに針状化光ファイバを用いて測定した蛍光スペクトルとの関係を検討した.その結果,浸漬・引き上げ回数が300回までは先端は円錐台の形状であったが,400回以上では細く鋭い針状になることが顕微鏡観察により示された.また,この針状加工を施した光ファイバを用いて得られた蛍光強度は,浸漬・引き上げ回数が400回までは,平面末端の光ファイバを用いて得られる蛍光強度より大きな強度が得られ,また蛍光色素の濃度依存性も高濃度までにおける直線性が得られた.しかし,浸漬.引き上げ回数が500回の光ファイバにおいて得られた蛍光強度は平面末端のものより低かった.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成31年度は,針状加工した光ファイバに銀ナノ粒子(AgNP)と蛍光色素を固定化することにより,電場増強を利用する高感度な微小酸素センサを作製し,その特性について検討する. 先端を針状に加工した光ファイバ表面にポリカチオンとポリアニオンを交互に積層した薄膜を形成し,これを蛍光色素溶液に浸すことにより膜中に酸素感受性蛍光色素を吸着固定化する.このセンサ表面に銀ナノ粒子を固定化することにより電場増強を利用する酸素センサを作製する.また,針状光ファイバ表面に交互積層法を用いてポリカチオンとAgNPを交互に積層する.これを酸素感受性蛍光色素溶液に浸すことによりポリカチオン層に蛍光色素を固定化した電場増強型酸素センサを作製する. 前年度までに構築した蛍光測定システムにこの酸素センサを組み込み,光カプラを介して光源から励起光を照射し,端面で発生した蛍光を光カプラを介してマルチチャンネル分光器に導入し,蛍光スペクトルの酸素依存性について検討を行う.すなわち,ポリカリオン/ポリアニオンの組み合わせによる特性の検討,および酸素感受性膜おけるAgNPの密度とセンサ感度についての検討を行なう. 続いて,発光ダイオード,フォトダイオード,光カプラ,フォトダイオードで検知した蛍光を電気信号に変換・増幅する測定用基板を内蔵する小型計測装置を作製する.これに,優れた感度を示した形状の光ファイバ表面に,感度の優れた製膜法および素材を用いて蛍光色素および銀ナノ粒子を固定化したセンサを接続することにより小型酸素計測システムを構築する.このシステムの特性を,マルチチャンネル分光器を用いて得られた結果と比較することにより,小型酸素計測システムの特性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は,針状加工の条件検討およびこれを用いる蛍光測定における特性検討を行なう過程で,末端をクリーバで切断したままの平面の光ファイバより適度な針状加工を行なった光ファイバの方が蛍光強度を感度よく検出できることが明らかとなった.加えて,測定範囲が広くなるとともに直線性も改善されることが明らかとなった.そこで当初の目的であった蛍光色素の固定化に適している交互積層膜の検討を変更して,針状加工の条件検討を主に行なった.これにより交互積層膜形成用の試薬の使用量が少なくなり次年度使用額が生じた. 本年度は,次年度使用額を用いて前年度に購入する予定であったさまざまなポリアニオンおよびポリカチオンを購入し,蛍光色素およびAgNPを固定化するために最適な交互積層膜の検討を行なうとともに,先端を針状に加工した光ファイバ表面に交互積層膜を形成して酸素センサを作製してその特性を検討する予定である.
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