ポリカチオンで被覆した銀ナノ粒子を調製し,酸素感受性蛍光色素を混合した溶液の蛍光スペクトルと,酸素感受性蛍光色素のみの溶液のスペクトルを測定し,両者を比較した.また,蛍光色素のみを含む薄膜およびポリカチオンで被覆した銀ナノ粒子を含む蛍光色素の薄膜を調製し,これらの蛍光スペクトルを比較した, 酸素感受性蛍光色素の溶液の蛍光スペクトルにおいては,銀ナノ粒子の存在により蛍光強度は大きく減少したが,ポリカチオン被覆銀ナノ粒子が存在する場合は蛍光強度がわずかに減少し,蛍光増強は認められなかった.これはポリカチオン層により蛍光色素と銀ナノ粒子と直接接触できなくなったことから,励起された蛍光色素からエネルギーが銀ナノ粒子へ移動しにくくなったため,消光が抑制されたためと考えられる.蛍光増強が認められなかった理由として,銀ナノ粒子の密度が高く,蛍光が散乱されたため見かけ上蛍光強度が減少したことが考えられる. ガラス基板上にポリカチオンで被覆した銀ナノ粒子薄膜を形成し,ここに蛍光色素薄膜を形成した場合は,蛍光色素薄膜のみの場合より蛍光強度の増加が認められた.また,ポリカチオンで被覆した銀ナノ粒子薄膜上にポリカチオン被覆銀ナノ粒子と蛍光色素から成る薄膜を形成した場合は更なる蛍光増強が認められた.これは,溶液の場合より銀ナノ粒子による蛍光の散乱が少なかったため,銀ナノ粒子の電場増強により蛍光強度が増大したためと考えられる. この基板に酸素ガスと窒素ガスを吹きかけたときの蛍光強度応答について検討した.窒素ガスから酸素ガスへ切り替えると蛍光強度はただちに減少し,窒素ガスに戻すと蛍光強度はただちに増加して元の値に戻った.その変化の大きさについては,銀ナノ粒子が存在する場合は,蛍光色素のみの場合の約2倍であった.
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