研究課題/領域番号 |
17K06474
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90295577)
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研究分担者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知機能 / 視覚的注意 / 固視微動 / fNIRS / 定量的評価 / 生体信号解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,注意の統制に関与する神経ネットワークに対する,客観的モニタリング手法の確立を目的とし,注視を維持した状態で注意の移動先を統制する空間手がかり課題を実施し,妨害刺激を意図的に無視するようなタスクを課した際に計測された固視微動の解析を行う.その結果に基づいて,注意の集中状態を定量的に把握すると同時に,事象関連fNIRS信号の解析により,注意の統制に関与する神経ネットワークの客観的評価を試みる. 平成30年度は,予め指定された特定の視対象に注意を維持し続ける条件(注意維持課題),および,突発的変化に対して受動的に注意が捕捉される条件(注意割込課題)のうちのいずれかを課す空間手がかり課題を実施し,このときの脳活動をfNIRSにより計測した.両条件において提示される視覚情報は同一であり,注意の対象のみが異なる.したがって,これらの差分は,持続的注意の維持に関する領域,または,外乱への注意の移動を司る領域を明瞭化することが期待される.目標刺激への応答時間の分析により,実験条件の妥当性が確認されたことから,fNIRSを用いて右脳側頭葉を対象にして脳機能計測を行った.計測されたfNIRS信号に対しては,血流動態分離法(Yamada et al. 2012)を適用して脳機能性信号を抽出し,長期トレンドおよび高周波ノイズを除去した後,試行間の加算平均を求め,両条件間の差分を算出した.その結果,注意維持課題においては前頭葉腹側部(VFC)が優位となり,注意割込課題においては,頭頂側頭接合部(TPJ)が優位となることが明らかとなった.この結果は,fMRIによる空間手がかり課題において賦活する脳領域に関する報告(Corbetta et al. 2005)と概ね一致したことから,fNIRS計測に基づいた注意の統制に関与する神経ネットワークの計測が可能であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における平成30年度以降の計画では,注意の統制に関与する脳領域を明らかにするために,視覚認知課題を実施し,この時の眼球運動と事象関連FNIRS信号の同時計測を行うことを予定していた.また,計測されたfNIRS信号に対しては,身体動作や心拍変動等に起因する皮膚血流のアーチファクトを除去し,血流動態分離法を適用することで,脳活動に伴ったヘモグロビン流量変動を高精度に抽出するための信号処理についても検討することを計画していた.「研究実績の概要」に記したように,これらの計画に沿って実験を実施し,得られたfNIRS信号の解析と評価を行った結果,fNIRSの解析に基づいた,注意の統制に関する機能的な神経ネットワークのモニタリングが可能であることが示された.これらの成果は,令和元年7月に開催される国際会議での発表を予定している.現状では,眼球運動とfNIRS信号の同時計測が着手前であるが,それ以外は計画通りに成果をあげており,研究計画に従っておおむね順調に進展しているものと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,本年度実績の概要でも述べた空間手がかり課題を実施して,このときの眼球運動,特に固視微動と事象関連fNIRS信号の同時計測を行う予定である.現在のところ,被験者の注意の状態の把握は,目標刺激に対する反応時間に基づいて判断している.すなわち,注意維持課題においては,手がかり刺激が指し示す位置に対する注意の促進効果が認められ,注意割込課題においては,突発的変化が生じた位置において注意の効果が確認されたことから,意図通りに注意が統制されているものとみなした.しかしながら,応答時間の差異には個人差が大きいことから,より正確かつ普遍的に注意の状態を把握するためには,多覚的な評価が必要であると思われる.そこで,令和元年度は,固視微動の解析に基づいた注意の集中と移動の客観的評価を試みる.固視微動のうち,マイクロサッカードと呼ばれる微小な視線のジャンプ運動は,注意の集中によってその発生頻度が低下することや,注意の移動が生じた直後に発生の抑制とリバウンドが連続的に観察されることが知られている.これらの知見に基づいて,本研究課題での空間手がかり実験において,被験者の注意の状態を把握するための手段として,固視微動解析を適用する.固視微動の解析結果と,事象関連fNIRS信号の解析結果を併せて評価することにより,注意の統制に関与する機能的な神経ネットワークにおける情報処理過程の客観的モニタリングを試みる.さらに,計測・解析の単純化や規格化を検討し,その医学的あるいは工学的応用について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には,平成30年度に「バックアップ用ハードディスク」および「NIRSファイバー」の消耗品費,学会等の出張旅費,国際会議参加のための外国旅費,被験者報酬をそれぞれ計上していた.実際に交付された予算に応じて,外国旅費の執行を見合わせて予算計画を再編したが,今年度はNIRSファイバーに障害が出ることがなかったために,交換部品調達のための予算に余剰が生じた.そのために次年度への繰り越しが発生した.
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