宇宙の渚と呼ばれる下部電離層は,衛星周回軌道より低く気球到達より高い高度に位置する。そこで,定常観測には地上からの遠隔観測からの推定しかなく,全世界に観測施設を持っており,現在日本でも,情報通信研究機構が,国分寺などの国内4か所において15分毎に定常観測している。この地上定常観測から得られるデータをイオノグラムという。イオノグラムは,パルス電波を打ち上げ,エコー波強度の時間遅れの周波数特性を計測した特性図である。しかし,この膨大なデータの内,電離層E,F層の電子密度分布の最大値など一部しか,現在利用されていない。 そこで,本研究では,イオノグラム全体を用いて,下部電離層の電子密度分布を推定する。更に,イオノグラムでは測定できない中波放送波帯以下に関して,中波強度観測等を加味することを目標とする。 まず,「イオノグラムから下部電離層電子密度分布の衝突回数分布を含んだ推定」という世界で初めての手法を開発することに主眼においた。まず,2018年にロケット実験のデータとの比較により基本手法の信頼性を示し,2019年に実際のイオノグラムから推定した電離層電子密度分布と国際参照電離層(IRI)の電子密度分布との違いを示し,2021年に電子密度分布推定計算法を示した。2024年には,エコー波強度に対する考察を加味した。 一方,「中波帯強度の減衰特性等からより低い部分の電子密度分布を推定」に関して,反射点の緯度経度が異なり,定常的な観測も困難になった。なお,2012年5月21日の金環日食時と2019年1月6日の部分日食における下部電離層変化に着目し,中波強度観測を行った。両者の日食との差異を調べた結果,従来説では説明が困難な結果となった(URSI-2021)。この点に対し,2024年に太陽活動度が下部電離層全体に影響することで説明がつく示唆を得た。
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