最終年度は、超音波照射時に海綿骨で生じる圧電特性に関して詳細に検討することを目的として、以下の研究を行った。 1)海綿骨に照射する超音波の周波数を1~5 MHzの範囲で変化させた場合の圧電信号の変化を観測した。海綿骨中の間隙寸法の1/2に相当する波長(周波数)で圧電信号の振幅が大きく継続時間が長くなり、海綿骨中の間隙による超音波挙動の変化が圧電信号に影響を及ぼしていることが示唆された。2)層状の骨梁配向に対して超音波照射方向を回転させた場合の圧電信号の変化を観測した。実験結果から、圧電信号の振幅は2つの特性-骨梁配向に依存した超音波伝搬特性と骨梁を形成する骨組織自体の圧電異方性―によって変化し得ることが推測された。3)海綿骨内部における超音波特性を詳細に示すことを目的として、海綿骨中の超音波挙動の数値シミュレーションを行った。この超音波特性と圧電特性を明確に関連付けるために、圧電信号の数値シミュレーションプログラムの作成を行った。 研究期間全体を通して得られた主な研究成果として、以下の三点を挙げることができる。 1)超音波照射によって海綿骨で発生する圧電信号を測定する方法を確立することができた。具体的には、海綿骨試料を圧電素子とみなした一種の超音波センサ「圧電セル」の開発および改良を行った。2)海綿骨の間隙を満たす流体が圧電信号に及ぼす影響について検討した。その結果、間隙流体によって海綿骨中の超音波伝搬特性が変化して、圧電信号はその影響を受けることが分かった。特に、海綿骨の間隙流体中を主として伝搬する超音波(低速波)の影響が大きいことが分かった。3)海綿骨の骨梁配向が圧電信号に及ぼす影響について検討した。その結果、圧電信号の振幅は骨梁配向に依存するが、これは骨梁配向による超音波特性の変化と骨組織自体の圧電異方性の2つが関係していることが分かった。
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