風観測ライダは、風速を空間的に観測する機器であり、航空気象安全や地球環境計測をはじめ、近年様々な用途において需要が拡大した。風観測ライダは、レー ザ出力における技術的限界によって、観測性能が十分でないため(観測距離が短い・観測精度が低い・分解能が悪い)、その利用性を著しく損なっている。申請者らは、レーダ技術を応用して、変復調技術を用いた風観測ライダ方式を新たに提案した。これまでの研究において提案方式を理論的に検証した結果、従来方式 の風観測ライダにおける欠点を克服できることが分かった。本研究では、提案する風観測ライダ方式に則ったプロトタイプを製作し、その性能を実証するととも に、実用上の問題点を明らかにすることを目的としている。 本年度は、これまでに製作したプロトタイプを用いて十分な観測実験をおこない、提案方式の理論が示す距離分解能、速度分解能、受信電力といった性能の改善効果を検証することができた。観測実験と検証を繰り返す過程では、低クロストークレベルのサーキュレータや高感度のディテクタなど、プロトタイプ性能向上のための新たな構成品導入にともなう調整をおこなった。具体的に、実験においては、4マイクロ秒幅の周波数変調パルスと1マイクロ秒幅の無変調パルスを交互に空中に放射した。前者は提案方式であり、後者は既存方式にあたる。それらの送信パルスに基づく散乱光を受信し、受信信号を記録した。そして受信信号に信号処理を施し、それぞれの方式に基づく距離ー速度プロファイルを算出し、比較した。その結果、理論的に提案方式が有すると考えられる効果、例えばパルス長の増大によって速度分解能が改善されるなどの効果が確認された。 観測および検証の結果を専門家のコミュニティと共有するとともに、論文執筆を開始した。論文については令和5年度中の採録を目指している。
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