研究課題/領域番号 |
17K06492
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤本 健治 京都大学, 工学研究科, 教授 (10293903)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 最適制御 / 機械学習 / 航空宇宙 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、制御工学の分野に機械学習や統計的データ解析の方法論を導入し、これまでの確定的なモデルに基づく制御ではなくデータに基づく制御を可能にすることです。さらに本研究では、得られた統計的な情報を用いた制御手法を航空宇宙分野に応用することも目標としています。この目的のもと、機械学習の方法論を制御工学に応用する研究、航空宇宙工学特有の制御問題を扱う研究、の2つの方針で研究成果を得ています。まず上記の1つ目の機械学習の方法論を制御工学に応用する研究としては、ガウス過程回帰を非線形制御系のシステム同定と非線形制御則設計に応用する問題を取り扱いました。ガウス過程回帰とは、入出力データからその入出力の非線形の関係式を推定するノンパラメトリックな手法です。本研究では、非線形システムの最適制御を行う際 に解くことが必要となるハミルトンヤコビ不等式と呼ばれる偏微分不等式を、ガウス過程回帰を用いて解く手法を開発しました。データからの学習を偏微分方程式の求解という新しい問題に適用することで従来にない設計が可能となります。また2つ目の課題である航空宇宙工学特有の制御問題を扱う研究としては、パラメータ変動の元での宇宙機の軌道計画問題および宇宙機の経路追従制御問題を扱いました。実際の宇宙機と数式モデルは正確には一致しないことが多く、この変動に起因した宇宙機の軌道のずれがしばしば問題となります。この問題に対して、モデルの変動を物理パラメータの変化ととらえ、そのパラメータに関する運動の変化率を表すモデルを新たに構築することで、モデルの変動に強い軌道計画手法を開発しました。また宇宙機の力学的特性を利用した経路追従制御手法を開発し、より自然でロバストな制御則を導きました。今後は本概要の前半で述べた機械学習を用いた設計法と組み合わせた宇宙機の制御論を開発する予定です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、制御工学と機械学習の融合、そしてその航空宇宙分野への応用、を当初の目的としていました。これら2つの目標に対して、各年度毎にそれぞれのテーマの研究を行い成果を得ており、概ね順調に進展していると考えています。一方、これらの理論的成果と航空宇宙分野への応用への橋渡しは必ずしも十分とは言えず、研究期間を1年間延長してこの内容の研究を行いたいと考えています。 機械学習の制御工学への応用に関する研究としては、ガウス過程回帰を用いた最適制御の解法に関する研究を行い、一連の成果を得ました。非線形系に対する最適制御は、ハミルトンヤコビ不等式と呼ばれる偏微分不等式を解くことに帰着されますが、その偏微分不等式の解を、不等式を満たす点を人工的にサンプリングすることにより生成し、うまくデータ処理することで回帰問題として解く手法を開発しました。サンプリングを用いた統計学習にはガウス過程回帰を用い、また不等式を満たす解を効率的に求めるのにサポートベクトルマシンと呼ばれる機械学習のツールを利用しています。これらは国内外の会議および学術論文で発表しています。 航空宇宙特有の制御問題の解法に関しては、パラメータ変動に強い宇宙機の軌道計画法および宇宙機を扱える経路追従制御法を開発し、一定の成果を得ています。変動するパラメータに関する感度を表現する変分系を用いてこの問題を定式化し、その可制御性解析に基づいてパラメータ変動にロバストな軌道計画法を提案しています。経路追従制御に関しては、角運動量保存則などの宇宙機特有の拘束条件を有する力学系のための手法を開発し、宇宙機の姿勢制御問題に応用しています。これらの成果も、国内外の会議および学術雑誌に発表しています。このように要素技術の開発に関しては順調に進んでおり、次年度はその融合分野に関する研究を行いたいと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究方針としては、これまで得られた2つの方向性の研究をそれぞれに発展させてゆくこと、およびこの2つの研究を融合して、より統合的な手法を開発することにあります。 まず1つめの研究テーマである、機械学習の制御工学への応用に関する研究に関しては、制御工学の様々な問題にガウス過程回帰を利用することが挙げられる。本研究以前にも申請者らは非線形システム同定への応用や、得られたガウス過程回帰モデルに対する非線形制御系設計などの研究を行ってきています。本研究で得られた成果と過去の成果を融合し、モデリングから制御までを一体化することが本研究の課題の一つとなります。 次に2つ目の研究テーマである、航空宇宙に特有の制御問題の解法に関する研究について。これまでに得られている成果では、宇宙機やその環境の物理パラメータが変動した際に宇宙機の運動の変化を抑制する手法を開発しました。この物理パラメータの変動は、通常は正確に測定することができず、その変動の仕方は統計的に扱うことが自然です。よって、統計的なばらつきを持つパラメータ変動に対するロバスト軌道設計法を開発することが実用上は重要となると考えています。 さらにこれらの研究を融合して、より実用的な問題も扱いたいと考えています。宇宙機の制御問題におけるばらつきの統計的情報を用いて、パラメータ変動にロバストな軌道計画法を開発することや、統計的なばらつき情報をフィードバック制御に活かして姿勢制御を行うことなどが考えられます。また本研究の成果として得られている宇宙の経路追従制御手法は精密なモデルを必要とすることから、この手法をパラメータ変動に対応させることも、今後の課題となります。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、研究目的を大きく2つに分けて研究を進めてきました。1つは基礎的な制御アルゴリズムに関する部分であり、統計的学習手法を制御工学の問題に応用して新たな制御手法を開発することにあります。もう1つは、航空宇宙の諸問題へ制御工学を応用することにあり、特に宇宙機の制御問題におけるパラメータ変動に対するロバスト性の向上の問題を取り扱いました。これらの2つの方針の研究においては、それぞれに十分な成果を導いていて、前者に関してはガウス過程回帰の手法を最適制御問題の解法に応用し一定の成果を得ています。また申請者のこれまでのシステム同定・設計の成果と組み合わせて、モデル化から制御までの一連の手続きに学習的手法を応用することが可能となりました。また後者に関しては、特にパラメータ変動が宇宙機の軌道に与える効果を厳密に表現し、その影響を抑える軌道計画法を開発しています。また宇宙機の経路追従制御に関しても力学的に自然な枠組みを開発し、従来よりもロバストな制御が期待されています。 一方で、これらの成果を一つにまとめて、機械学習を用いて宇宙機の制御を行う統合的な設計手法はいまだ開発途上で、この成果を統合する部分の研究が遅れていると言えます。この部分研究を行うため、1年の研究期間延長を申請させていただきました。次年度はシミュレーションによる検証と成果発表に研究費を使用する予定です。
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